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パラリンピック出場を目指して、ドイツのマンハイム大会に参加してきました

  • 2024年06月01日(土) 12時00分
 世界の競馬史に名を刻む、第91回日本ダービー。

 今年の3歳世代7906頭の頂点が決まる日本ダービーは、ホースマンにとって夢のレースです。

 騎乗騎手紹介のセレモニー時、花束の包装が騎乗服と同じになっていて、粋な計らいでしたね。出走した17頭はどの馬も能力が高く、精鋭揃いでワクワクドキドキが最高潮です。ファンにとっても夢のレースですよね。

 結果は圧巻のレース展開で、ダノンデサイル号の末脚は最強でした。安田翔伍先生をはじめ、陣営の皆様おめでとうございます。最年長の日本ダービー制覇を果たした横山典弘騎手もおめでとうございます。息子さんとのハイタッチに思わずにっこりしましたし、最高の笑顔を見ることができ感激しました。思わず典さんおめでとう! とTVの前で叫んでいました。

日々是好日

▲日本ダービー制覇を果たした横山典弘騎手とダノンデサイル(撮影:下野雄規)


 安田翔伍厩舎は土曜日の京都競馬場で行われた葵Sを、横山和生騎手の手綱でレコードタイの勝利。ピューロマジック号のスピードを活かしての重賞初制覇おめでとうございます! 土日は安田翔伍厩舎と横山ファミリーのベストタッグに拍手喝采です。益々今後の活躍が楽しみですし、夏競馬への夢も広がってきますね。皆さん夏を楽しみましょう!

***

 そして僕も夏に向かってGoです。実はのんびりしていられません。パリ・パラリンピック候補選手に選ばれ、出場を目指してドイツのマンハイム大会に参加してきました。5月1日、ゴールデンウィーク真っ最中の成田空港では人の波に押しつぶされそうでした。その上、渡航費用の爆上がりにオカンが悲鳴をあげていました(いつも感謝)。

 それでも挑戦。「頑張る」と何とかオカンを説得して大会に向かいましたが、準備が大変でした。

 まず、「Agreement Form(誓約書) 私はパリ2024パラリンピック競技大会の日本代表選手に選出された場合、日本パラリンピック委員会の意向に従い、以下の事項について誓約します」以下の文章は、すべて英語で書かれていて読むことができず大変でした。高校へ行き始めましたが、英語力はまだまだ。ほとんど読まずに誓約書にサインをしてしまいました。

 すると「親愛なる常石勝義さま…」と返事が来て「あなたの国内連盟はあなたをパラ馬場馬術選手としてFEI(国際馬術連盟)に登録しました。FEIはアスリートの幅広いサービスを提供しています。あなたはアスリートのための一般的な情報を見つけることができるでしょう」とありました。

 他にも、僕自身の健康診断書提出、肺活量・心電図・血液検査などのメディカルチェックや、使用薬物検査の説明などが9ページあり大変でした。

日々是好日

▲準備を終えて大会会場の許可書を獲得!


 成田空港から10時30分に出発し、フランクフルト空港へは翌日の17時50分着。日本とは8時間くらいの時差があり、ヨーロッパは白夜なので、時差ボケで朝か昼か分からなくなってしまいました。

 とりあえず今日は、ホテルでひと休みして明日から特訓です。昨年もマンハイムには行ったことがあるので、会場の雰囲気は分かっているつもりでしたが、とんでもなかったです。

 会場ではお祭りがあり、とっても賑やかでお店も沢山出ていました。サッカーなどの会場や、オリンピック選手代表が決定する大会も行われています。ほかには障害馬術もあります。競技に出る馬が人ごみの中を堂々と歩き、その後ろから犬がついていくという、日本とは全く違った光景に驚きます。

日々是好日

▲マンハイムで行われていた障害馬術


日々是好日

▲人ごみの中、馬と犬が歩いていく光景も!


 馬はとっても落ち着いていて、ゆったりとした表情で歩く姿をみて、これが強さの秘訣だと思いました。もちろん僕の愛馬も堂々と歩いていました。特に障がい者向けの乗馬は、訓練されています。もっとも僕自身が、落ち着いて騎乗しないと駄目なんですけどね。

 大会1日目は、経路を間違えない様に騎乗することに集中します。高校へ行きはじめて、記憶力や集中力が少し良くなったなーとトレーナーから褒められました。インカムをつけて騎乗するので難しい面もありますが、しっかりと経路を読み上げてくれるトレーナーの声を聴いて演技に集中しました。視野欠損のためにポイントが見づらく、気をつけなければと思っていた左側の隅角を、どうしても浅く回ってしまうのが難点です。

 テイクフィジカルコンディショニングジムでは「馬上で骨盤をしっかり立てて、姿勢をよく見せること。馬の動きの邪魔をしないこと」と言われています。競馬でも同じなんですよね。分かっているけど、体制が崩れてしまうときがあるので、しっかり踏ん張る、といつも言い聞かせています。

 27種類の経路が終了し一礼して、拍手と「ブラボー」の声が聞こえたときは、やったーと思いました。しかしポイントは、あまり伸びず。海外の大会は基準がとても高いのでもっといい演技をしないと点数が上がってきません。ここが踏ん張りどころなので、明日こそは頑張ります。

 迎えた大会2日目。昨日の失敗を繰り返さない様に、慎重に経路を回ります。馬も元気がよく、タッタッタッと演技することが出来ました。愛馬DEUTO号はよく頑張ってくれ、経路の間違いもなく審判の前で最敬礼をしました。すると、会場から拍手と「ブラボー」の声が聞こえ、競馬でゴールを切った瞬間を思い出して気持ちよかったです。

 DEUTO号よく頑張ってくれたな、ありがとうと首筋をなでて感謝の気持ちを伝えました。厩舎へ戻ると、みんな「ブラボー」と迎えてくれ嬉しかったです。

 結果は60%は超えたものの、トップの方は68.8%とまだまだ未熟さを感じます。情けないですよね。僕には何が足りないのかよく考えました。馬を美しく見せる軽やかな動きが求められるのに、僕は、1つ1つの動きになってしまい、フィギュアスケートのように流れをつくることが出来ないんです。これは大きな課題です。トップの方の演技は、吸い込まれそうなくらい自然な動きに見惚れてしまいました。デッカイ課題を残しての帰国です。

 障がい者乗馬は終わった後、拍手とともに両手を広げてキラキラと振ってくれます。キラキラの華がいっぱい咲くまで頑張ります! パリ大会まで余裕は無いですが…。

日々是好日

▲「キラキラの華がいっぱい咲くまで頑張ります!」



 ここまで来たからには最後まで諦めずにもうひと踏ん張り、高校生活と二刀流です。先日学校では体力テストがあり、両足を揃えてジャンプするテストをしたとき、跳べませんでした。先生も驚いており、気持ちはあるんですが体だけ前へ行こうとして足がついてこないんです。言うことを聞いてくれないもどかしさを感じました。

 握力検査はクラスのトップで、仲間からも先生からも流石やねと褒めてもらい、自慢できることあるんやと嬉しく感じました。高校生の仲間とは年齢差があり、中々追いつけないことはいっぱいですが、僕にもできることがあるんだなと少し自信がつきました。

 胸囲を測るときには、男子に筋肉を凄いなーと触られてしまいました。ちょっと恥ずかしかったけど、元騎手だったことやジムに通っていることが無駄ではなく、強い体と筋力がついていることが分かりました。この調子で心も強くしていきたいです。

 二刀流忙しくなるぞー。

オカン ゴールデンウィークにドイツまで行かんでもーと思いつつ送り出す。渡航費用の分までしっかり演技するようにと思いましたが、後ろ姿を見ていると左足首の硬さが目立ち踵が浮いており、鐙をしっかり踏み込めないんだと感じました。

 騎座を保つことが大事ですが、右に身体が少し傾くんだろうなと思います。インカムから聞こえるトレーナーの声を頼りに馬を動かす難しさを乗り越える息子にチョットだけ「ブラボー」です。一人で成田空港へ向かい、トレーナーと合流して大会に出場。乗馬で知り合った知人にも会うことができ、馬仲間の素晴らしさを感じたようで、これだけでも収穫かと思います。

 海外で携帯が使えないトラブルもあり、低額料金で設定したことを反省するオカン。早速5GBに切り替えに行きました。携帯が使えなくても何の不満も不便さも感じない息子にまたまたブラボーです。ちょっとずつ遠くなるかと感じるオカンですが、パリパラ馬術大会を、最後まであきらめずに手繰り寄せてください。息子へエールをおくります。

 つねかつこと常石勝義&オカン

(次回の更新は7/1(月)を予定しております)

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1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っている。

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