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ニエユ賞&フォワ賞の展望

  • 2011年09月07日(水) 12時00分
 10月2日のG1凱旋門賞を目指す日本馬3頭が走る前哨戦が、11日(日曜日)、本番と同じロンシャン競馬場の2400mを舞台に行われる。

 G2フォワ賞を走るナカヤマフェスタ(牡5、父ステイゴールド)とヒルノダムール(牡4、父マンハッタンカフェ)、G2ニエユ賞を使うナカヤマナイト(牡3、父ステイゴールド)に、ヴィクトワールピサ(牡4、父ネオユニヴァース)を加えた4頭は、呉越同舟で8月10日に成田空港を出発する輸送便に乗り込んだ。海外遠征を行う上で、乗り越えなくてはならない関門がいくつかある中、関係者がことさらに「今回はここがポイント」と懸念していたのが、輸送だった。

 輸送の負担は軽いに越したことはなく、そのためには直行便で行くのが最善なのだが、近年は日本発着の貨物便が減少し、馬の輸送はどこの国へ行くにも、経由地を挟まなければアレンジできない状態となっている。実際に、昨年凱旋門賞に挑んだ際のナカヤマフェスタとヴィクトワールピサはアムステルダム経由だったし、今年ロイヤルアスコットに遠征したグランプリボスの乗った便もまた、アムステルダム経由であった。蛇足になるが、今年はメルボルンCに参戦する日本馬が1頭も居ないのも、輸送便の手配が大きな障害となったからである。

 今回も関係者が様々手を尽くした結果、最も負担が少なく済みそうとのことでアレンジされたのが、韓国のインチョンを経由する便だった。ここを経由すればシャルルドゴールに降りられるので、現地に到着してからの負担が少ないと判断されたのである。心配は、インチョンにおけるトランジットに、どれだけの時間を要するのか、そしてその間、馬たちはどんな環境に置かれるのか、にあった。かつて、ドバイに渡った馬たちが、経由地の香港で劣悪な環境に長く止め置かれたこともあっただけに、誰にとっても初体験の「インチョン・トランジット」を、関係者はおおいに危惧していたのである。

 ところが出発直前、4頭の乗る便はインチョンに降りず、直接パリに向かうことになったのだ。おそらくは、インチョンで積み下ろす貨物が無くなり、降りる必要がなくなったのであろうと関係者は推測したが、これは日本馬にとって大きな追い風となった。

 当初は、11日のニエユ賞ではなく、17日のG3プランスドランジュ賞に廻るプランも検討されたのが、ナカヤマナイトだった。実績的にやや劣る同馬は、前哨戦である程度結果を出さなければ凱旋門賞出走へのメドが立たないため、相手の1枚落ちる1週間後のG3が俎上に載ったのだ。だが、結局は11日のG2ニエユ賞を使うことになった。本番が凱旋門賞になるにせよG2ドラール賞(1950m)になるにせよ、プランスドランジュ賞を使えば、中1週のローテーションとなる。相手が軽いとはいえ、それなりに消耗することは避けられない。それならば、多少相手が骨っぽくとも、使った後の立て直し期間が長い方が良いとの判断があったようだ。

 デビューから無敗でG1仏ダービー(2100m)を制した後、G1パリ大賞(2400m)で3着に敗れて初黒星を喫したリライアブルマン(牡3、父ダラカニ)。そのG1パリ大賞に追加登録料を払って出走し、見事G1制覇を果たしたメアンドル(牡3、父スリックリー)らが相手となる。

 昨年に続いてG2フォワ賞に参戦するのが、ナカヤマフェスタだ。フランスから帰国後に走ったG1ジャパンCのレース中に故障を発症して戦線を離脱し、ここは10か月半振りの実戦となる。

 復帰までの道のりが平坦ではなかっただけでなく、現地入りしてからの調整も、決してすべからく順調というわけではなかったと聞いている。なにしろ、風変わりな気性の持ち主であることで有名なナカヤマフェスタだ。渡仏直後は、立ち上がったり、走っている最中に急に停まったりと、腕利きとして知られる佐々木助手でなければ、とても御せない振る舞いが見られたそうだ。その後、シャンティーに数ある調教馬場の中で、馬が気分良く走れる調教場所を見付けたことで、大きな改善が見られたと聞く。

 また、長い休養明けゆえ、調教のピッチが上がり、馬への負荷が増してくると、馬体面のケアにも細心の注意を払わざるを得なくなる。そこは、百戦錬磨の二ノ宮調教師だ。整体師を呼び寄せて治療にあたらせるなど、様々な手を尽くし、臨戦態勢が整うことになった。

 ナカヤマフェスタと同じフォワ賞に出走予定のヒルノダムールにも、現地入りして間もなく、タッグを組むべく、同じ小林智厩舎に入ったヴィクトワールピサが戦線離脱するという、予期せぬ出来事が起きた。

 だが、現地で調達した調教パートナーが思った以上に良く動き、ヒルノダムールにとって格好の稽古相手になったことで、影響を最小限に抑えることが出来たと聞く。

 また、日頃から厩舎で使っている、水の浄化装置を現地に持ち込むなど、昆調教師が打つべき手を的確に打ち、小林調教師、田中騎手、沢田マネージャーというサポートチームが有効に機能した結果が、順調な調整に結び付いているようだ。

 フォワ賞は、昨年の凱旋門賞3着馬サラフィナ(牝4、父リフューズトゥベンド)、この路線の前半戦の総決算キングジョージの3着馬セントニコラスアベイ(牡4、父モンジュー)らが相手になるようだ。

 日本馬3頭には、結果もさることながら、本番に向けて明るい材料と提供してくれる内容の競馬を期待したい。

▼ 合田直弘氏の最新情報は、合田直弘Official Blog『International Racegoers' Club』でも展開中です。是非、ご覧ください。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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