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菊花賞

  • 2011年10月24日(月) 18時00分
 史上7頭目の「3冠馬」が誕生した。1戦ごとに強さと迫力を増すレース内容から、3冠達成は多くのファンや陣営の期待通りだった。しかし、その強さの中身は期待をはるかに上回り、さらに広がる未来を展望できる素晴らしい内容だった。歴史的な、末頼もしい菊花賞馬誕生である。

「近年の代表的な菊花賞馬が誕生した際のレースラップ」
 前半1000-中盤1000m-「2000m通過」-後半1000m
1994年 ナリタブライアン
 (61秒2)-(61秒5)-「2分02秒7」-(61秒9)=「3分04秒6」R
1998年 セイウンスカイ
 (59秒6)-(64秒3)-「2分03秒9」-(59秒3)=「3分03秒2」R
2005年 ディープインパクト
 (61秒2)-(63秒4)-「2分04秒6」-(60秒0)=「3分04秒6」
2006年 ソングオブウインド
 (58秒7)-(63秒5)-「2分02秒2」-(60秒5)=「3分02秒7」R
2011年 オルフェーヴル
 (60秒6)-(62秒1)-「2分02秒7」-(60秒1)=「3分02秒8」

 数字は先頭に立っていた馬の残したものなので、あくまで参考に過ぎないが、菊花賞レコードと0秒1しか差のない今年の特徴は、伏兵陣が入れかわり立ちかわり先頭に立ってレースを先導したことにより、3等分した「前半1000m、中盤1000m、後半1000m」にほとんど差がないこと。ナリタブライアンの年に近い。

 どこの部分も取り立てて速い部分はないが、これは逆に、息の入れにくい厳しい平均ペースを意味する。計15ハロンのどこにも「13秒台」のラップが刻まれなかった菊花賞は、長い歴史の中、史上初めてである。流れを作った伏兵陣も立派な脇役だった。バランス酷似のナリタブライアンの年は最初の1ハロンが13秒台だった。

 レース上がり3ハロンは、今年「11秒5−11秒6−12秒0」=35秒1。スローで全体時計が遅い場合は別に、3分05秒0以内だったケースでは、勝ち馬の上がり3ハロン「34秒6」は史上ベスト3に入る。

 近年の3冠を制したミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアン、ディープインパクトに共通するのは、負けられない3000mの菊花賞の必勝態勢は「4コーナー先頭」がパターン。オルフェーヴルは、厳しい流れでレコードに匹敵する勝ちタイムを記録しながら、最後は流す余裕さえみせて、勝ち馬とすれば史上最高級の「上がり34秒台」だった。

 芝状態も、道中の流れも異なるから、ただ「走破タイム」だけで強い勝ち方をした歴代の名馬と比較することはできないが、こと菊花賞の中身だけをいえば、同じ3冠馬のディープインパクト、ナリタブライアンと少なくとも「互角」。あるいは、それ以上ともいえる。

 皐月賞、ダービーのころの体は父と同じように削ぎ落とした440kg台。ところが、秋になってハードな調教をこなしながら、今回は466kg。父ステイゴールドの良さだけでなく、池江泰郎元調教師、池江泰寿調教師がそろって「母の父メジロマックイーンの…」を強調するように、メジロマックイーン(奇しくも今年、牧場の歴史に終止符)の真価まで前面に押し出してきたから素晴らしい。だいたい、輸入種牡馬の産駒にしても、内国産種牡馬の産駒にしても、父のスケールを上回るのはきわめて珍しいこと。タフに走りつづけ、最後に海外GIを制したステイゴールドも、これこそ最高の誇りだろう。息子のオルフェーヴルは、明らかに自分を超えたのである。

 デビュー戦からコンビの池添謙一騎手の手綱さばきも、完ぺきだった。少し行きたがった前半、巧みに馬群の中に入れて少し順位を下げたあたり、レースバランス全体の中で、中盤の息を入れたい部分とドンピシャ一致している。4コーナー手前から待たずに自分からスパートも、菊花賞の3000mでは必勝の、チャンピオンだからこそのレース運び。あそこでウインバリアシオンに決定的な差をつけることができたのである。

 やがて来年は、凱旋門賞(など)が展望の視野に入ることになる。今週の天皇賞・秋には、いきなり短期免許の海外の騎手が4人も乗る予定になっている。それはそれで陣営(オーナー、調教師)の考え方や流儀だからいいが、まさかとは思うが、オルフェーヴルの海外GI挑戦は、たとえどういうシーズンであろうと、その鞍上は池添謙一でなければ挑戦の意味は半減するだろう。オルフェーヴルも、新馬や今回と同じようにレース後に鞍上を振り落とす楽しみがなくなってしまう。

 ウインバリアシオンは、結果、2着取りのような形になってしまったが、ダービー、神戸新聞杯の内容から、言葉は悪いが「一発逆転」を狙うなら、そのうえで人気にもそむかないなら、思い切って控える極端な戦法しか安藤勝己騎手には残されていなかったろう。見事である。

 オルフェーヴルと前後する位置でいわゆる正攻法のレースを展開したなら、だれもその結果はわからないが、それでも2着だったか、まして勝機はあったか? そういうことである。

 トーセンラーは、今度は体も戻って素晴らしい状態。内枠を生かしどう乗るかがテーマだったが、蛯名正義騎手は最初からオルフェーヴルをぴたっとマークする位置を守った。最後は離されて3着だが、こちらもまた逆の意味で挑戦者らしいケレンなしのレース運びだった。オルフェーヴルと同じようなレースをして「3分03秒5」だから、素晴らしい内容である。

 強敵と対戦し、かつ積極的なレースを展開させて4着に粘ったハーバーコマンド(公営の木村健騎手)は、この挑戦によってステップアップ必至だろう。ゴットマスタングもあきらめずに直線まだ伸びていた。果敢なレースを進めたフレ―ルジャックは、さすがに今回はキャリアの浅さ(若さ)がつらかった。フェイトフルウォーは馬群にもまれる展開に対応できず、ショウナンマイティは内に入り込むチャンスを見いだせなかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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