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欧州の当歳馬市場を支えるシーザスターズ

  • 2011年11月30日(水) 12時00分
 11月23日から26日まで英国のニューマーケットで行われた、「タタソールズ・ディセンバーセール・フォール(当歳)セッション」は、総売り上げが前年比36.4%アップの2386万ギニー、平均価格が前年比14.9%アップの35,880ギニー、中間価格が前年比5.0%アップの21,000ギニー、前年25.2%だったバイバックレートが24.3%と、主要な指標の全てが前年を上回る好結果となった。

 一般景気は依然として欧米ともに非常に厳しい状況にあるにも関わらず、今年後半に北半球各国で開催された1歳馬市場や牝馬市場では好況が続いているが、その流れをそのまま受け継いだ形となっている。

 一般的な経済が芳しくないのに、競走馬市場だけが好調な要因に関しては、様々な分析がなされている。

 1つは、外資の活発な流入である。世界的な景気の低迷とはいえ、中には経済が好調で「勝ち組」に廻っている国もいくつかある。代表的なのはオーストラリアで、オーストラリア人バイヤーは各地のセールで大活躍だ。いわゆる“BRICs”という言葉で括られる組の中では、ロシア圏の富裕層が世界の競走馬市場に積極的な投資を行っているし、原油を背景とした中東諸国も、お馴染みのドバイだけででなく、カタール、アブダビといった地域からも、多額のオイルマネーが競走馬市場に投じられている。彼らにしてみれば、かつてないほどドルがユーロの価値が下がっている今、欧米で投資を行う絶好のチャンスを迎えているわけで、好機を逃さずに上質のサラブレッド蒐集に努めているのである。

 2つめは、競走馬以外の市場が先行き不透明であるゆえ、従前なら他のマーケットに投じられていた資金が、競走馬市場に流れてきている側面があるとの分析だ。金融商品も不動産も暴落の危機と背中合わせで、リスクヘッジにも限界がある。どのみち背負わなくてはならないリスクがあるのなら、楽しめて、なおかつ夢を買うことも出来る競走馬に、と考える投資家が、ブラッドストックマーケットに参画しているのである。

 3つめは、欧州の当歳馬市場に関してのみ言えることだが、マーケットを支える大きな力となっているのが、フレッシュマンサイヤー・シーザスターズの存在である。

 45万ギニーの最高価格で購買された上場番号1012の牡馬をはじめ、高額取引馬上位6頭のうち3頭が、シーザスターズ産駒だったのだ。

 前の週にアイルランドで行われたゴフス・ノヴェンバーセールの当歳セッション(11月18日)でも、高額馬上位4頭が全てシーザスターズ産駒だったから、2009年の世界チャンピオンの初年度産駒は、完全にマーケットの寵児になっていると言えそうだ。

 父ケイプクロス・母アーバンシーという血統のシーザスターズ。母が凱旋門賞馬で、兄に英愛ダービーに加えてキングジョージを制したガリレオがいるという背景から、当然のことながら関係者もファンも大きな期待を寄せていた馬ではあったが、3歳時に彼が行ったキャンペーンは、万人の期待を上回る崇高にして壮大なものとなった。5月の英国に二千ギニーから、10月の凱旋門賞まで、欧州各国の主要G1ばかりを走って6連勝を飾ったのである。1マイルから2400mまでこなした距離に対する融通性、月に1度のペースで駆け続けたタフさ、そして何よりも、136という今世紀最高のレイティングを獲得した抜群の競走能力を備えたシーザスターズは、非の打ちどころのない完璧なサラブレッドと称賛された。

 今年の春に生まれたシーザスターズの初年度産駒がまた、おしなべて素晴らしい出来なのだ。多くの産駒が父似で、手足が伸びやかで広々とした馬体をしており、姿勢欠点を持った馬がほとんどいないと言われている。

 近年、新種牡馬の初年度産駒への需要がマーケットでこれほど高かったことはなく、関係者は来年の1歳馬市場もシーザスターズ産駒が盛り上げてくれることを期待しているし、ファンも含めて、初年度産駒の馴致育成が始まる来年の秋を、心待ちにしているのが現状である。

 ちなみにタタソールズにおける最高価格馬(上場番号1012番)は、兄にG3ジェベル賞勝ち馬サーフライダーがいるという血統背景を持つ。購買したのは、ハムダン殿下のシャドウェルであった。

 皆様も御存知のように、2008年・2009年の日本の年度代表馬ウオッカの、この春生まれた初年度産駒は父シーザスターズの牡馬だし、ウオッカは現在もシーザスターズを受胎中だ。ウオッカの子供たちが日本で走る日が、益々楽しみになったと言えそうだ。

▼ 合田直弘氏の最新情報は、合田直弘Official Blog『International Racegoers' Club』でも展開中です。是非、ご覧ください。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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