中舘英二騎手と言えば、真っ先に思い浮かぶのが「逃げ」というキーワード。これまで一度も逃げたことがない馬でも、中舘騎手が乗ればたちまち逃げ馬に変身してしまう。その魔法のような「逃げ」の極意を聞いてみました。

逃げ職人・中舘英二
―ゲートを出る瞬間は、自分で出してますか?
「馬にもよるけど、初めて逃げる馬とか、そんなに速くない馬とかは出すね。
でも、逃げるために大切なのはスタートが速いことじゃないんだよ。スタートはみんなと一緒でいいから、2,3完歩目のダッシュが速くないとね。だから、2,3完歩目ですぐにトップスピードにいけるようなバランス感覚が大事なんだ。まぁ…偉そうなこと言ってるけど、今でも失敗することは多いけどね」
―中舘騎手が逃げ馬に乗ってたら、競ってくる騎手はあまりいないんじゃないですか?
「いるでしょ、いっぱい! ガンガン競られるよ(苦笑)。
ただ、昔は何が何でも逃げてたけど、最近は心の余裕が出来たのか、どうしても行きたい奴がいるなら番手でもいいやと思うようになったね」
―何頭も逃げ馬がいる時は、どんな気持ちですか?
「枠順もあるけど、“逃げ馬”って言っても色んなパターンがあるから。ゲートは速いけどダッシュはつかないとか、ゲートはイマイチでもダッシュが速いとか。そういう部分を研究して、突っ張って逃げるか行かせるか考えるね」

スローにすればいいわけじゃない
―逃げ職人の中舘さんから見て、逃げるのが上手いと思う騎手は?
「上位はみんな上手いよ。流れるように逃げるから。それがへっぽこジョッキーだと、ハナに立った途端ガクンとペース落としたり、外から来られたら急にペース上げたりするから…。ただ単純に、逃げ切るためにはスローにすればいいと思ってる騎手はダメだね」
―ペース配分はどうやって組み立てますか?
「まずは、自分の馬の上がりの脚から考える。例えば、上がり34秒の脚が使えるなら、4コーナーを回る時にこのくらいのリードがあればいいなとか、35秒の脚ならリードはこれくらいだなっていう風に。一番の勝負は、直線を向いた時にどれくらいのリードがあるかだから」
―中舘さんて、4コーナー回りながら演技してる時ありますよね?
「あれは演技じゃないの(笑)。感覚でやってるだけなの」

逃げ馬の引き出しは持ってる
―い~や、絶対演技です! 手は全く動かさないでペースアップしてるじゃないですか! 「僕、ペース上げてませんよ」って感じで、こそ~っと(笑)。
「スーッとね、行かす感じかな。下半身のバランスなんだけど…本当に感覚なんだよね。後ろの馬との距離って、引きつけた方がいい馬と、離して行った方がいい馬がいるじゃない。レースによって、馬によって、後ろとの距離を感覚で測ってるの。たくさんの馬に乗せてもらった分、“逃げ馬”っていうカテゴリーの引き出しはいっぱい持ってるつもりだから」
―逃げ切りって、一番強い勝ち方だと思うんですけど。
「でもジョッキーとしては追い込みの方がいいよ! 直線で他の馬を抜くのは気持ちいいし、馬群をさばいて伸びて来るっていうのは達成感が強いよね。それに比べて逃げ切りは…最後はだいたいバタバタだし、直線は「来ないでくれ~、来ないでくれ~」って思いながら乗ってるんだもん。絶対、追い込みの方が気持ちいいよ」
―実は「逃げ職人」て言われるのイヤですか?
「そんなことないけど(笑)、僕が調教師だったら、自分には乗せないもん。
やっぱり、騎手は総合力だから。僕の場合は技術がなくて、どうしたら勝てるだろうってことを追及して今のスタイルになったわけ。ノリ(横山典弘騎手)やカツハル(田中勝春騎手)みたいだったら、こうはなってないよ。
ただね、今年に入って死ぬかと思うような大きな怪我もしたし、20年一緒にやって来たエージェントが亡くなって、ものすごく落ち込んだ時期があったの。いろいろ考えたんだけど、この先の人生はオマケっていうか、プラスアルファと思って、新しい中舘英二になりたいと思ってる。たまには追い込みでも勝ってるんだからね!!」
現役ジョッキーの中で4番目に年上の中舘騎手ですが、今でも進化を続けているのはさすが! この夏、ニュー英二として大暴れする姿が楽しみです! [取材:赤見千尋/美浦]
◆次回予告
次回は栗東から常石勝義さんがリポート。この春いつも話題の中心にいた福永祐一騎手を直撃します。公開は7/10(火)18時、ご期待下さい。