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オークスも簡単な結果にはおさまらない/桜花賞

  • 2015年04月13日(月) 18時01分


あまりにも特殊なレース

 総括の難しい桜花賞である。ただただ反省し、なんとかこのあとに結びつけなければならないことが山のようにあるが、振り返ってみるに、あまりにも特殊なレースだった。

 レースは前半「50秒0」、後半「46秒0」=1分36秒0。1000m通過62秒5だった。

 桜花賞が距離1600mになったのは1947年。68年も前である。現代にも通用する正確な時計やレースラップが発表されるようになったのは、半世紀ほど前の1960年前後からのことである。それ以前は時計も5分の1秒単位だった。したがって、レース史上もっとも遅い1947年の「1分42秒2/5」当時の記録の中身は推測するしかないが、ほかに1分40秒台-41秒台で決着した年のレースラップや、1981年、水田のような馬場をブロケードが制した史上2番目に遅いレースでさえ、前後半「48秒1-53秒2」=1分41秒3であることから推測するに、今回の、調教並みの前半「800m通過50秒0→1000m62秒5…」は、1600mの桜花賞の歴史69回、飛び抜けて遅い。ふつうは、どんなに遅くても1000m通過59秒台である。

 正確な記録が残る中では、桜花賞史上「もっとも緩いペース」である。ところが、現代の整備された芝コースだから、後半は「46秒0-33秒5」。つじつまは合ったが、なんと生じた前後半の差は「4秒0」。信じがたいバランスになった。前半1000m通過62秒5は、今年の阪神大賞典3000mより2秒1も遅い。それが、マイルのG1桜花賞だからとらえ方が難しい。

 もちろん、快勝したレッツゴードンキ(父キングカメハメハ)の評価はいささかも低くなるものではないが、これはパート1国日本で行われた国際G1の、頂点のクラシックである。勝ったレッツゴードンキのレーティングは、いかにおまけしても103程度にとどまるはずであり、2着以下は、レーティングの数値にはとても相当しない2ケタだろう。勝ったレッツゴードンキ以外は、自分たちでその原因を作ったとはいえ、「壊れてしまった」レースであり、みんな最後は余力十分だから、2着クルミナルと、18着クールホタルビさえ1秒の差もなかった。芝ではめったに先行しない岩田騎手に、ペースについて語られるようでは、ほかの陣営のうつろはやむをえない。

 長い歴史の中では、たまにはこういうこともある。こればっかりは仕方がない。笑って済ませたい。でも、天気は回復してくれた。ルージュバックや、ココロノアイの桜花賞を楽しみにしていたファンは、(黙ってはいても)きっと悲しいはずである。むなしかった。

 ルージュバックを嫌っても、「勝つのはレッツゴードンキだ」とはならなかったから、完敗は仕方がないが、ルージュバックに傾斜しすぎたことは大きく反省したい。型破りの「新馬1800m→2000m→1800m」→桜花賞の1600m。もちろん破綻をきたした理由のひとつになるが、これはレースに出走させる側の長期展望であり、それぞれの開拓したい流儀だから、結果が出なかったから失敗ということではない。いや、生産牧場やオーナー名から察するに、みんなそろって「チューリップ賞」や「フィリーズR」に出走するわけにはいかないから、分散されたのだという見方もできるが、桜花賞でそんなことまで考える方向は、多くのファンにとって歓迎したくないことである。育成から、出走レース、騎手まで、大オーナーの意向が、欧州の限られた大富豪、大オーナーの意向の大きさと同様になった現在では、むしろみんなと同じ方向に向かう姿勢だけは歓迎したくないから、理由はともかく異端は悪くないのである。

 男馬相手に3戦3勝は、能力の高さに確信をもたせたと同時に、陣営に小さな奢りをもたらした危険はある。その型破りのローテーションに、かえって新鮮な魅力を感じたが、自信は、細心のレース展望にほころびをもたらした。今回は輸送する前の段階で450キロ。それをカバーできなかった。別に細くはないが、いつもの落ち着き払ったルージュバックではなかった。今回がまだ4戦目の牝馬には、十分に考えられた死角である。

 これほどの歴史的なスローペースはどの陣営にとっても想定外だが、はさまれて引いた時点で、当然のように勝利の女神はルージュバックを見捨てた。18頭立ての桜花賞はそんなに甘くない。はさまれる前に、あれだけ好スタートの自分は好位を譲ってはいけないレースであり、残念なことにルージュバックの前半は推定「半マイル51秒2-1000m通過63秒4」である。中盤ですでに絶望である。桜花賞は、相手のペースに合わせた馬に勝機はおとずれない。

 勝ったレッツゴードンキ(岩田康誠騎手)もスタート直後は一瞬、位置取りが非常に難しく、少しかかりかけた印象があったが、どの馬も行く気を見せないから、リズムを壊さなかったレッツゴードンキは自然に主導権をにぎることができた。逃げたわけでも、捕まらないように先行したわけでもないが、2-3番手につけたのが無理せずに粘り込んで好走したいムーンエクスプレス(松山騎手)と、ノットフォーマル(黛騎手)。このペースでつつかれることもなかった。逃げ切りといえばそうだが、逃げ切りというよりは、「単騎楽走」がレース短評ではないかと思える。

 2着に負けたものの、積極的な好騎乗が光ったのはクルミナル(父ディープインパクト)の池添騎手だった。例によってスタートは良くなかったが、出負け気味だからといって最初から押さえて進むような弱気な作戦はとらず、前半でロスを最小限にとどめる位置にもぐりこんだあと、4コーナー手前からのコース取りも実に巧みだった。クルミナルは、不満足な結果が多かった馬のなかにあって、オークスへの展望が開けた数少ない1頭だろう。

 430キロ台の馬体を大きく見せ、素晴らしい状態に映ったのはアンドリエッテ(父ディープインパクト)だった。「ルージュバックをマークする位置にいたが…(川田騎手)」というコメントがあった。戦法を決めていたのであれば、まあ仕方がないといえば仕方がないが、上がり最速の33秒2を記録しながら6着止まり。さすがにもったいない気がした。

 だいたい同じようなメンバーの対戦が予想される東京のオークス2400m。桜花賞が波乱になった年は、オークスも簡単な結果にはおさまらない。これがほぼ決まりのパターンだが、あまりにも特異な流れの桜花賞のあとだけに、今年はとくに難しいだろう。さすがに、またまた歴史的なスローはありえないが、少なくとも、信頼に足る中心馬はいなくなってしまった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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