皐月賞から一転、優等生の正攻法
皐月賞を圧勝した素晴らしい能力が評価され、断然の支持を受けた
ドゥラメンテ(父キングカメハメハ。母アドマイヤグルーヴ)が、期待に応え「2分23秒2」の日本ダービーレコードで快勝した。
激しい闘志を秘めた気性から、皐月賞と同じようになだめて進むのではないかと予測されたが、平常心だったという装鞍所から、パドック、本馬場入場、そしてレース内容まで、ドゥラメンテは古馬のように落ち着いていた。みなぎる気迫を全身に示すときより、一見、ピーク過ぎを思わせるように「落ち着き払い、枯れてみせるくらいのときに全能力が出せる」という例えがあるが、まさに今回のドゥラメンテがそうだった。
堀調教師以下、スタッフの快心の仕上げであり、M.デムーロ騎手は作戦を用いる必要がなかった。ゆっくりスタートしたと見えたのに、首を上げている隣りのリアルスティールをスッーと交わして1コーナー過ぎには7-8番手。皐月賞とは一転、優等生の正攻法である。
高速馬場を意識し、また皐月賞を1分58秒2で楽々と乗り切った今年のメンバーの全能力を発揮するためには、「俺がレースを作ってやる」。そんな横山典弘騎手がペースメーカーとなって、前半1000m通過「58秒8」。少し速いのではないかとみえたが、終わってみれば前後半「1分11秒3-1分11秒9」=2分23秒2。紛れを許さない厳しい平均バランスの2400mだった。勝ち負けに関係した1着から4着まで、上位5番人気以内に支持された馬だけであり、行って2分24秒6のミュゼエイリアン(10番人気)も、10着に粘っている。
キングカメハメハ産駒のドゥラメンテは、父の産駒として初の日本ダービー勝ち馬となると同時に、父と、ディープインパクトの持っていた日本ダービーの最速記録を塗り替えた。
今年の
ミュゼエイリアンの前半1000m通過は「58秒8」。ディープインパクトの年は「59秒9」。キングカメハメハの年は「57秒6」。先導馬のペースは大きく異なるが、3頭の勝ち馬自身の前後半1200m(推定)は、
15年ドゥラメンテ…「1分12秒5-1分10秒7」=2分23秒2
05年ディープインパクト…「1分14秒0-1分09秒3」=2分23秒3
04年キングカメハメハ…「1分12秒0-1分11秒3」=2分23秒3
となる。結果的にもっとも前後半のバランスが取れていたのは、縦長の乱ペースになった2004年に中位から差したキングカメハメハである。ひとまくりで独走を決めたディープインパクトの前後半には「4秒7」もの差があり、とてもあれが全力発揮とは思えなかった。秘められた可能性は、のちの菊花賞、レコードの天皇賞・春などで発揮されている。
3頭の勝ち馬の自身の中身を800mずつに3等分すると、
15年ドゥラメンテ…「48秒3-48秒9-46秒0」上がり33秒9
05年ディープインパクト…「49秒4-48秒9-45秒0」上がり33秒4
04年キングカメハメハ…「47秒9-48秒2-47秒2」上がり35秒4
尻上がりにスピードを上げる後半スパート型のディープインパクト。全体にバランスを失わない自在型キングカメハメハ。その特徴が、日本ダービーの勝ち方にも良く現れている。今年のドゥラメンテの中身は、レース運びからしても、かなり「父キングカメハメハ」に近い。父と、その代表産駒だから当然か。ついでにいえば、母アドマイヤグルーヴ(父サンデーサイレンス)も、その母エアグルーヴ(父トニービン)も、さらにはその母ダイナカール(父ノーザンテースト)も、さまざまなレースを展開したが、好位、中位からの差し切りが多かった。
5年くらい前の記録ではあるが、ノーザンF、社台Fなどを合わせた社台グループの、山のような数の多岐にわたる繁殖牝馬の中で、もっとも多いのがこのダイナカール「その母シャダイフェザー(父ガーサント)」から広がるファミリーの牝馬群である。
秋の目標は、現段階では未定か。凱旋門賞挑戦も、菊花賞(あるいは天皇賞・秋)もある。あくまでドゥラメンテの体調と、完成度、成長余地を熟考しての判断になるだろう。
岩田康誠騎手の
サトノラーゼン(父ディープインパクト)が最内の1番枠を引いた時点で、消してはならない有力馬の1頭に加えたファンが多かったかもしれない。その通り、道中は内ぴったりを回りつつ、直線もインを通ってたたき出してきた。京都新聞杯と同じようなレース巧者ぶりをフルに発揮して、これで通算成績【3-4-3-0】。実にしぶとい。かなりチャカチャカしていたから、落ち着けばさらに良くなるだろう。
それにしても近年の「1番枠」の好走はすごい。1週前のオークスでは50年も60年も勝ち馬の出現していない1番枠が、日本ダービーでは最近8年で【4-2-0-2】となった。この週からCコースに移って内枠有利はたしかだが、それなら2番も3番も4番も有利なはずで、1番だけは異常である。ビッグレースで必ず生じたり消えたりする不思議のひとつか。
同じオーナーのラーゼンと写真判定になった
サトノクラウン(父マルジュ)がハナ差の3着。後方から外を回る苦しいレースになったが、最速の上がり33秒8で鋭く伸びた。11月の東スポ杯の内容から、速い脚の長つづきするタイプかどうかの心配もあったが、そんな死角はないことを示すと同時に、距離2400mもOKだった。切れ味は中距離でこそ全開すると思えるが、秋はどんな路線を展望するのだろう。2000mの東京の天皇賞・秋向きかもしれない。
2番人気の
リアルスティール(父ディープインパクト)は、中間の動きは陣営でさえ自信のコメントを発したくなるほど素晴らしいものがあった。だが、不思議なもので、当日の全体のかもしだす雰囲気はなぜかあまり目立たず、直後に落ち着き払ったドゥラメンテがいるから、なんとなく物足りない印象さえ与えてしまった。1コーナー手前でクビを上げて行きたがる素振りを見せたリ、追撃に入った最後の直線では舌を出してしまうなど、ロスが大きすぎた。いざ本番になって、思わぬ若さ(幼さ)が出てしまったということか。
伏兵(単勝234.9倍)としてただ1頭上位5着に食い込んだ
コメート(父ブラックタイド)は、勝ち負けには加われなかったものの、この健闘は見事。16年目で日本ダービー初騎乗となった嘉藤貴行騎手(33)は、「この馬は絶対に走る」とデビューから8戦ずっとコンビを組んできた。信念通りついにダービー出走を果たした想いが、コメートに全部伝わったようだった。
キタサンブラック(父ブラックタイド)は、入念に乗ってきたが10キロ増の馬体重が示すように、丈夫で健康ゆえにいまがちょうど体の成長期か。外枠から少々ムリをしてでも行かなければ(勝ちに出なければ)ならない立場とあって、厳しい流れで失速は仕方がない。
レーヴミストラル(父キングカメハメハ)、
タンタアレグリア(父ゼンノロブロイ)の青葉賞組は、ペースが違うとはいえ前回の時計を「2秒4-3秒0」も短縮しての入着止まり。さすがに今回は急に相手が強化しすぎた。