今回はいつものコラムと趣向をかえて、小島友実さんとの対談をお届けします。従来とは傾向が一変した新生中山芝。その秘密を、小島さんに聞きました。
昨夏に15年ぶりの路盤改造工事が行われた
小島 中山の芝は、去年の夏に15年ぶりに路盤の改造工事を行いました。それまで、中山の芝は実は、あまり水はけが良くない競馬場だったんです。だから路盤改造工事をする時に水はけをよくしようという事で工事が行われたんですね。
これは私が去年夏に取材に行った時に撮った写真です。詳しくは、「馬場のすべて教えます」を見て頂きたいのですが、去年の馬場改造工事で中山競馬場の路盤に、直線の内側から18m、直線以外は内から11mに単粒砕石層(たんりゅうさいせきそう)という粒の揃った小石の層を入れたんです。
▼2014年、中山競馬場の馬場路盤工事時に撮影した単粒砕石層(写真:小島友実)
亀谷 あ、そうなんですね。それで新生、中山競馬場の芝は水はけが良くなったんですね。
小島 そうです。砕石層は、粒の揃った小石の集まりなんですけど、やっぱり砂利があることによって水はけって良くなるじゃないですか。
また、この馬場改造工事では暗渠管(あんきょかん)が入った事も大きいですね。暗渠管は水田などに用いられる事でも知られています。この暗渠排水管を中山の特に水はけが悪いところに何か所かに入れたわけです。
▼中山競馬場の暗渠管(写真:小島友実)
亀谷 暗渠管を入れると、劇的に水はけが良くなって、結果的にスピードが活きる馬場になりますよね。
小島 暗渠管、大事です。あと砕石層も同じぐらい大事です。これらによって本当に水はけが良くなって、中山は去年12月から改造した馬場でレースが行われていますけど、皐月賞まで、実は芝が重馬場になった事は1回もなかったんですよ。気付いていました?
亀谷 いやー。中山の芝は変わりましたねぇ。
小島 もちろんダートは不良まで行ったことがあるんですけど、芝は稍重で止まっているんです。
亀谷 馬場課長が路盤改造効果をアピールするために馬場発表を甘くしたり(笑)?
小島 そういうことはないです(笑)。この砕石層と暗渠管のおかげで劇的に水はけが良くなったわけです。
実際、今年の春に中山の馬場造園課長にお話を聞いたら、「馬場改造前なら、重馬場になっていただろうという位、雨が降っても、改造後は稍重でとどまっている。これは砕石層と暗渠管の影響でしょう」という事です。
昨年末は「バーチドレン」でクッション性が高まった状態に
亀谷 新しい路盤で中山芝が始まったのは去年の12月からじゃないですか。ジェンティルドンナというのは本当にラッキーな馬だなと。やっぱりスターは運がいいんですよね。
小島 たしかに、去年の有馬記念はジェンティルドンナには有利な馬場になりました。昨年12月に、中山競馬が開幕する前に、馬場の硬度を測ったら、少し締まった状態だったそうなんです。だから、クッション性を高めるために、昨年11月頭くらいにバーチドレンを中山の芝コースに入れているんですよ。
そうしたことによって、クッション性が高まった状態になって、昨年12月の中山の開幕週の初日は、なんと逃げ切り勝ちが1頭もいなかったんですよね。考えてみれば、数年前までは中山の開幕週は先行有利でしたよね。
でも、昨年12月の中山の開幕週は結構、差しが決まっていたということで、前半の中山はなかなかディープインパクト産駒が勝てない馬場になっていたんです。
亀谷 今の馬場の作りは、最初の方がタフになりやすいですよね。バーチドレンというのは入れてから何週か経った方が路盤は硬くなって行く傾向にあるんじゃないかなと思うんですよ。
▼後部にある棒で馬場に穴を開けていく「バーチドレン」。路面をほぐし、通気性や排水性を向上させ、芝がより育つ環境を整える
小島 いや、硬くなるというのではなく、バーチドレンで一度軟らかくなった硬度が、馬が走る事で蹄の圧がかかりますから、元に戻って行く感じですね。
ジェンティルドンナがラッキーだったのは、有馬記念が行われた週は約1週間、雨が全然降らなかったんですよ。それで馬場が乾いていたのもありますよね。
亀谷 冬は、芝の生育の面でも散水はあんまりしないもんね。
小島 そうですね。だから、軽い馬場になってジェンティルドンナ向きの馬場になったというのがありますよね。