トレヴが負ける場合に想定することが出来た最良の結末
フランキー・デトーリが見せた究極のライディング・パフォーマンス
第94回G1凱旋門賞(芝2400m)は10月4日(日曜日)、曇り空のパリ・ロンシャン競馬場で、良馬場(=Bon)を舞台に開催された。
史上初の3連覇に挑むトレヴ(牝5、父モティヴェイター)が、オッズ1.9倍の圧倒的1番人気に支持され、G1仏ダービー(芝2100m)勝ち馬で前走G2ニエル賞(芝2400m)快勝のニューベイ(牡3、父ドゥバウィ)が5.8倍の2番人気。以下、G1英ダービー(芝12F10y)勝ち馬で前走G1愛チャンピオンS(芝10F)を勝ったゴールデンホーン(牡3、父ケイプクロス)がオッズ6.2倍で3番人気。G1プリンスオヴウェールズS(芝10F)勝ち馬で前走G1愛チャンピオンS(芝10F)では直線で進路を妨害される不利があって3着に敗れたフリーイーグル(牡4、父ハイチャパラル)が18倍で4番人気。昨年の凱旋門賞2着馬で、北米に遠征した前走G1スウォードダンサーS(芝12F)快勝のフリントシャー(牡5、父ダンシリ)がオッズ20倍の5番人気となった。スタート後まもなく先頭に立ったのは、トレヴ陣営がレースの先導役とすべく、1日の段階で12万ユーロを払って追加登録したシャハー(牝3、父モティヴェイター)。
見ていた誰もが驚いたのがここからで、フランキー・デトーリ騎乗のゴールデンホーンが、進路を外にとって1頭だけポツンと馬群から離れた位置を進みはじめたのだ。14番という外枠からの発走で、前に壁が作れずに掛かって行ったのかと思いきや、そうではなく、折り合いに難のあるゴールデンホーンを、他の馬から離して落ち着かせようという、大胆な戦略だった。
そして1番人気のトレヴはと言えば、スタートがあまり速くなく、後から4〜5頭目の馬群外目に待機することになった。
一方、2番人気に推されたフランスダービー馬のニューベイは、2番手と積極的な競馬を展開。その直後に付けたのがフリントシャーで、フリーイーグルは中団からの競馬となった。
3コーナー手前で、コースロスを避けるためにフランキー・デトーリがゴールデンホーンを内に寄せて行くと、行き脚のついた同馬は一気に番手を上げて行ったが、先導役のシャハーを追い越すことはなく、2番手で3コーナーのカーブへ。
先頭のシャハーは変わらず、2番手にゴールデンホーン、3番手にフリントシャー、4番手ニューベイと、トレヴ以外の有力馬が先行集団に固まった一方、前走ヴェルメイユ賞ではフォルスストレートに入ると引っ張り切れない勢いで上がっていったトレヴが、ここでは依然として中団より後ろ目のポジションをキープ。
4コーナー手前からようやく進出を開始したトレヴが直線入り口で馬群外に持ち出すと、スタンドは早くも大歓声に包まれた。しかし、直線に向いて先頭に立ったのがゴールデンホーン。その外にフリントシャー。そしてその更に外に行ったトレヴだったが、自慢の豪脚に火がつかない。
脚色が断然良いのはゴールデンホーンで、後続との差を開きながらゴール。2馬身差2着がフリントシャーで、2着から頭差遅れた3着がニューベイ。切れ味の鈍かったトレヴは、3着馬に鼻差及ばぬ4着で、3連覇達成の偉業はならなかった。
3連敗を喫して臨んだ昨年は鮮やかな勝利を収め、3連勝で臨んだ今年は4着に敗れるのだから、競馬は難しいとつくづく思う。管理するクリケット・ヘッド調教師はレース後の会見で、「激走した前走の影響が、自分が考えていた以上にあったかもしれない」とコメント。昨年の凱旋門賞後には、引退宣言の後に撤回して現役に残るという騒動のあったトレヴだが、ヘッド師はきっぱりと、今季限りでの現役引退を強調した。その表情には、トレヴを敬い労う気持ちが強く現れており、会見終了時には集まった報道陣から期せずして、大きな拍手が沸き起こった。思わず胸が熱くなった、感動的な光景だった。
一方、名手フランキー・デトーリが、持てる技術の全てを駆使した究極のライディング・パフォーマンスを見せたことで、「良馬場で自分の競馬が出来れば、トレヴ相手でも楽勝する」と豪語していた陣営の言葉通りに快勝したゴールデンホーン。関係者もファンも、情念の部分では皆、史上初の3連覇を見たいと思いつつ、実はそれほど簡単なものではないと理性では感じつつ見ていたのが今年の凱旋門賞だった。そういう観点で言えば、トレヴが負ける場合に想定することが出来た、最良の結末を迎えたのが今年の凱旋門賞で、見逃さずに良かったと、筆者は今しみじみと感じている。
ゴールデンホーンはこの後、馬が元気ならば北米に遠征してG1BCターフ(芝12F)に参戦する予定。年内一杯での引退が決まっており、来春からニューマーケットのダルハムホールスタッドでの種牡馬入りが既に発表されている。