前回ご好評を頂戴しました、小島友実さんとの馬場対談。今週から開幕する京都芝についてをお届けします。
京都競馬場の水はけが良い理由は「暗渠管」にあり
亀谷 京都って、馬場改造工事をしてから年月が経っているでしょう。だから日本一バブリーな競馬場だと思うんですよね。日本が好景気の時に馬場改造工事を行っているし。
小島 よく知ってますね。たしかに、それはありますよね。
亀谷 京都というのは構造上、水はけが良い競馬場なんですよね? 京都は芝コースの路盤の下に入っている暗渠管(あんきょかん)排水の数も多いから。
中山の芝も昨年、路盤改造をしてコースの一部に暗渠管を入れて、排水性が驚くほど改善されたけど、京都にはこれがビッシリ埋め込まれてるんですよね?
▼中山競馬場の暗渠管(写真:小島友実)
小島 そうです。京都競馬場の芝コースには1994年の路盤改造工事の時に、コース全体に約20mピッチで暗渠管が入っています。
亀谷 小島さんの本『馬場のすべて教えます』に書いてありますね。
小島 宣伝、ありがとうございます(笑)。
亀谷 京都の路盤改造時はまだ景気が良い時代だったので、予算的にたくさん暗渠管を入れる事ができたんじゃないかな、とボクは妄想してます(笑)。やっぱり、日本の様々なテーマパークを見ても、バブルの時に作ったか、そうじゃないかって、色々違いますよね。
そうそう。あと、京都競馬場の芝コースにはエクイターフを使ってないんですよね。エクイターフはもともと、傷みにくい芝という特徴を持つから、水分を含んでもダメージを受けにくいわけでしょう。だから京都みたいに、暗渠管排水がたくさんある競馬場は水はけが凄く良い路盤だから、別にエクイターフを使う必要がないという事なんでしょうね。
小島 たしかにそうです。京都競馬場は過去に一度、2008年に3〜4コーナーの内側の一部に試験的にエクイを入れた時期もあったんですけど、現在、京都ではエクイターフが全然入っていないんですよ。
亀谷 それは、必要ないという事なんですか、やっぱり。
瞬発力が求められる馬場で、ディープ産駒が台頭
小島 そうですね。コース全体に暗渠管が入っていて水はけが良く、芝が傷みにくいというのもありますよね。あと、コースの特徴からもエクイターフを入れる必要がないんですよ。
京都の芝コースは幅員が広く、AからDまでの4本のコースが取れる。かつ、内回り、外回りがあるので傷みが分散する。ちょっと内が傷んできたなと思ったら、コース替わりなので、なかなか内が傷みません。
あとは、コースの形ですよね。京都には3〜4コーナーにかけて下り坂があり、ここで馬群がスピードアップする。そして、そのスピードを保ったまま直線に入ると、直線は平坦なので、スピードを保ったままゴールを迎える事が多い。だから時計が出やすいし、基本的には前が残りやすい。
ただ、最近はJRA全体で軟らかい馬場造りを行っているので、昨年の秋競馬の京都開催の開幕週は、以前のように圧倒的に先行有利の馬場ではなく、差しも決まっていた印象でした。でもまあ、中山の開幕週のような感じにはなっていませんよね。それと、瞬発力が求められる馬場なので、ディープインパクト産駒が走る。京都の外回りのマイルはその典型ですよね。
亀谷 でも、水はけがいいからって、水を撒きすぎちゃうと、今年の春の天皇賞のゴールドシップの時みたいに、一部の人に怒られちゃうでしょ(笑)。
小島 ああ、あの一件ですね。でも気温が上がる春や秋競馬の時期は、レース前日に散水する事は珍しい事ではないんですよ。芝は生き物。気温が上がれば乾くので、芝が生きるための散水は必要ですから。
亀谷 なるほど。話をまとめると、ゴールドシップが勝った天皇賞の日も前日だけ、特別に水を撒いたわけではない。でも、一部の騎手が春の天皇賞当日の馬場を、「水分が溜まっていた」と言っていたのはなぜですか?
小島 その件に関しては京都の馬場造園課に取材しました。それによると、前日の土曜に30度近くまで気温が上がり、レース後、芝はカラカラに乾燥した状態であり、かつ、日曜の天気予報でも気温が上がる予報だったために、土曜のレース後に散水を行ったそうです。
でも、フタを開けてみたら、天皇賞当日は朝から曇りで、気温が上がらなかった。だから、散水した水分が残ってしまったという事なのでしょう。
亀谷 なるほどね。想定通りの気温だったら、いつもの京都芝の状態だったわけか。気温が高いのに水を撒かないと、今度は芝の状態に影響が出てしまうもんね。
小島 日曜日の天気予報も晴れで気温が上がりそうだったから、馬場造園課としては必要と思って散水をしたわけです。でも、日曜日に気温が上がらなくて、天候の発表も午前中は曇りでしたよね。それで当初の思惑とは外れてしまって、撒いた水が少し残ってしまったというのが現状なわけですよ。
亀谷 つまり、今の馬場管理体系だと、土曜の天気予報が雨。ところが、その天気予報が外れて思いっきり気温が上がっても散水しなかった状態が最高に走破時計の出る状態だ、とボクは思うんですけど。
小島 ああ(苦笑)、極論ですけど、それは一理あるでしょうね。
亀谷 そう。だから、天気予報とか、その競馬場の雨量とかを見ればね、いろいろ読めてくる(笑)。
ファンが馬場状態を判断しやすい時代になってきた!?
小島 亀ちゃんみたいに、自分から判断材料になる情報を調べる行為って、必要だと思いますよ。ただ、皆さんの意見としては「生育に必要だから水を撒くのは分かったと。じゃあ、金曜日とか、土曜日に散水したなら、その情報を発表して欲しい」って事ですよね。
亀谷 ああ、ボクはそこまでしてくれなくてもいいけど。天気予報とか雨量は調べる方法もあるんで(笑)。
小島 ただ、JRAのホームページでは今年の夏から、「週末情報」というコーナーを作り、レース前日に散水を行ったかどうか、またレース当日の午前8時までの雨量を公表するようになったので、気になる方はぜひ、チェックしてほしいですね。
亀谷 せっかく発表してくれているのだから、チェックしない手はないですよね。あとは、その情報を僕達ファンがどう活かすか。これが大事だと思いますね。
小島 そうですね。大量の雨が降っても、水はけの良い競馬場ならすぐに乾くところもあるし、その逆の競馬場もあるし。まあ、水はけの良い競馬場がどこかは、「馬場のすべて教えます」に書いてあるので、ぜひ読んで把握してほしいですね。
せっかくなので少しお伝えすると、今、話してきた京都はもちろん良いですし、東京競馬場も水はけは良いですよ。東京競馬場にも暗渠管排水が入っていますからね。
小島さんとの対談は以上となります。スペースの都合で今週末の重賞展望は亀谷ホームページで(ま、平日に取り上げたかった馬が思った以上に人気だったので展望しなくてもよさそうでしたが)。今週は東京も開幕しますので、ふたりで東京競馬場について語った
動画もあわせてご覧ください。
小島友実「馬場のすべて教えます」を2015年4月に出版、全10場の馬場を歩き、馬場に関する造詣を日々深めている。ラジオNIKKEI「中央競馬実況中継」、グリーンチャンネル「トラックマンTV」 にレギュラー出演するなど、幅広く活躍中。
『馬場のすべて教えます 〜JRA全コース徹底解説〜』【著書】小島友実
【ページ数】208ページ
【定価】1620円+税
【発売日】4月15日(水)
【発行】主婦の友社
【判型】A5判