馬主アレック・ヴィルデンシュタイン氏と主戦契約を結んでいたフランスのトップ騎手ドミニク・ブフが、シーズン半ばにして突如解雇されたことが明らかになった。
きっかけとなったのは、6月4日にエプソムで行われたG1コロネーションCにおけるヴァリーアンシャンテの騎乗だった。最終コーナー手前から内の窮屈な位置に押し込められたヴァリーアンシャンテ。鞍上ブフは何度か外に持ち出したい素振りを見せたものの、前後左右を囲まれるような状態であと100m付近まで来てしまい、ようやく前が空いて猛然と追い込んだものの、勝ったウォーサンから1.3/4馬身+短頭差の3着に敗れた。
ヴァリーアンシャンテと言えば、400キロに満たない小柄な牝馬ながら、牡馬を破って昨年12月のG1香港ヴァーズを制覇。フランス競馬界のアイドル的存在となっている馬で、当然のことながら、馬主アレック・ヴィルデンシュタイン氏の「大のお気に入り」であった。その「我が娘のような」ヴァリーアンシャンテが、タフなエプソムのコースで男馬に混じって頑張ったのに、ヴィルデンシュタイン氏に言わせると「これで2度目の馬鹿げた騎乗」のせいで敗北したとあって、馬主の怒りが爆発した。
レース後直ちに「もう2度とヴァリーアンシャンテには乗せん」と、次走からの乗り替わりが宣告されたが、それでもウィルデンシュタイン氏の怒りは鎮まらず、レース2日後の6月6日(日曜日)に、「契約解除、クビ!!」が申し渡され、01年5月から続いたパートナーシップが終焉を迎えた。
ブフがウィルデンシュタイン家の主戦をクビになるのは、実はこれが2度目。今から10年前の1994年、ドミニク・ブフは麻薬不法所持の罪で逮捕されたことがあるのだが、この時にも、当時健在だったアレックの父ダニエル・ヴィルデンシュタイン氏から、主戦契約解除を申し渡された事があった。
コロネーションCにおけるブフの騎乗は、客観的に見て、決して誉められたものではなかったものの、レースの流れから言って致し方のなかった部分もあった。アクアレリスタ、ブライトスカイによるオークス連覇など、馬主の期待に充分応える騎乗も多く行ってきたトップ騎手だけに、この一戦だけで解雇になるのは、いささか気の毒なような気もする。
だが一方、仕掛けのタイミングやコース取りが批判の対象になることも少なくなく、ヴィルデンシュタイン氏としてはブフ騎手に対する積もる積もった不満もあったのだろう。
今後、ドミニク・ブフはフリーとして騎乗。一方のヴィルデンシュタイン氏は、オリビエ・ペリエにアプローチ。ペリエは昨年からヴェルトハイマー兄弟と主戦契約を結んでいるが、「ヴェルトハイマー兄弟の馬が居ないレースに限る」と言う条件付きで、ヴィルデンシュタイン氏の馬に騎乗することで合意した。ペリエの体が空いていない時には、ティエリー・テュリエが騎乗することになるようだ。