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スタッフの力がマッチした最小型馬の勝利/秋華賞

  • 2016年10月17日(月) 18時00分


姉ヴィルシーナのように成長してくれるだろう

 史上、もっとも小さな秋華賞馬が誕生した。ヴィブロス(父ディープインパクト)の馬体重は、前回につづき「414」キロ。2000年ティコティコタックの420キロ、2015年ミッキークイーンの434キロを下回る、史上最小型馬の勝利だった。

 だが、小型馬といっても非力で柔なタイプではない。3歳の今年になって、桜花賞の出走権をかけて中山のフラワーCに遠征した(12着)。この秋も秋華賞の出走権を得るために中山の紫苑Sに遠征(大きな不利がありながら2着死守)するなど、タフで丈夫なハルーワスウィート産駒らしく(上に牝馬3冠レース2、2、2着のヴィルシーナなど)、小型でも柔らかいバネと無類の勝負根性を武器に、ビッグレースに向けてパワーアップしてきたたくましさがあった。

 栗東での木曜日の追い切り後の計測馬体重が426キロと発表されているから、当日輸送などでかなり減った414キロであり、紫苑Sへ遠征した当時(中山入厩で当日輸送なし)の414キロより、実際にはキチッと追い切りをこなしながら、数字以上に身体つきはしっかりしていたのである。

 再鍛錬を兼ねた牧場での充電、トレセン入厩後の調整、遠征の難しさなど、この秋はマカヒキの凱旋門賞遠征を貴重な経験に加えた友道厩舎のスタッフの力に、スプリンターズSのビッグアーサーで「最低の騎乗をしてしまった」とリベンジに燃える福永祐一騎手の気力が、最高にマッチしたとする見方もできる。ヴィブロスは、ヴィルシーナと同じように成長してくれるだろう。

 小柄な牝馬の調整(仕上げ)は、民間トレセンで仕上げられて入厩してくるケースが大半なので、新馬戦当時は苦心することはなくても、3歳のG1に挑戦するころがもっとも難しいとされる。

 今回は、1番人気に支持されたビッシュ(父ディープインパクト)も、奇しくも当日の馬体重418キロの小柄な牝馬だった。10着に沈んだ直後の感想なので、のちに原因がでてくるかもしれないが、戸崎騎手は「感触は良かったのに…。力を出し切れなかった原因がわからない」とコメントした。

 小柄な牝馬には、軽い調教や、意識的にひかえた調整が必要な馬はいっぱいいる。これはもうずっと以前からの永遠のテーマで、調教師や、中間の調教に携わるトレセンスタッフの正解のない課題である。「休ませるのも、大切な調教(調整)のひとつだ」という名言が残るくらいである。ただ、ひかえて活力温存に出る調整法は、そのレースにだけには有効であっても、短期間に2番は利かない。レースで激しく燃焼したことにより失う活力を次のレースまでに取り戻し、中身をキチッと作り直さないとならないからである。

 あくまで推測だが、ヴィブロスと同じように全身を使って躍動する勝負強いビッシュは、春のフローラSで凡走に近い5着のあと、オークスでものすごいレースをした。史上2位の2分25秒0で決着した大接戦を、あのときは大スランプだったデムーロ騎手が、3コーナー過ぎから強引に外をまくって進出して直線早めに先頭。それでシンハライトと0秒1差だから、わずか4戦目の小柄な牝馬にとって、素晴らしい内容だった。シンハライト、ジュエラー、メジャーエンブレムなど、才能あふれるこの3歳世代の牝馬のトップと互角を思わせた。

 そのあと、3ヶ月半の夏の充電期間を経たビッシュは、紫苑Sで、オークスで見せた才能が本物であることを証明してみせた。大外から進出して、ぶつかって不完全燃焼だったヴィブロス以下を引き離す圧勝である。だが、小柄なビッシュは一戦燃焼型というほど柔ではないが、あのレースで活力を爆発させてしまったに違いない。

 今度は、連続して結果を出さなくてはならない。中間の鹿戸調教師以下のスタッフに求められたのは、ビッシュの好状態キープである。入念な調整をほどこされ、大幅な馬体減も気配落ちもなく、秋華賞出走にこぎつけた。素晴らしい手腕であり、初の遠征競馬に出走することに一応成功した。

 ただし、小柄馬ゆえに燃焼型のビッシュには、つづけて爆発する活力は充電されていなかったのではないか、という気がした。今回のレース間隔で、ビッシュにハードな調教を課すことはできない。激走したあと、初めての関西への直前輸送をひかえての調整である。調教がゆるいとされても仕方がなかった。それが敗因ではなく、天才タイプのビッシュにとって、今回のようなローテーションは少なくとも現時点では合っていなかったのではないか、と推測したい。

 3歳のG1の日程は決まっている。だから、G1にピークに近い状態で出走するのはむずかしく、みんながヴィブロスや、パールコード(父ヴィクトワールピサ)のようにはいかないのである。好馬体のパールコードは、これからどんどん良くなるだろう。

 立ち直りの気配はみせたが、まだ本来の状態には戻り切れていなかった桜花賞馬ジュエラー、秋華賞を前に故障してしまったオークス馬シンハライト、立ち直りにちょっと時間がかかっているNHKマイルCのメジャーエンブレム、春の2冠は不出走で秋華賞を制したヴィブロス。

 この世代の牝馬には逸材がそろっている。レベルも高い。切り抜けてG1馬となるのは大変なことである。だから、みんな最高にいっても1冠ずつだけ。そしてもう、3歳世代だけのレースは終了した。次走からは、みんなもっと厳しい戦いが待っている。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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