▲今週も騎乗に関するユーザー質問「ヤラズ・ポツン騎乗をどう思いますか?」
あの騎乗は勇気と覚悟が必要、誰にでもできることではない
Q. 横山典騎手に対して「ヤラズ・ポツン騎乗」などとネットで話題になってます。少ない小遣いで遊んでいるサラリーマンとしては、馬の調子が悪かったでは納得できません。福永騎手なら答えてくれると思い、質問します。横山典騎手だけの責任ではないと思いますが、この「ヤラズ・ポツン騎乗」をどう思いますか?A. 前回(
『捨て身のマクリでレースを壊すのはあり?』)と似たような答えになるが、まず最初に言いたいのは、マクリにしても後方待機にしても、みんなひとつでも上の着順を目指し、試行錯誤の末に選択した騎乗だということ。それを、まるでやる気がないかのように言われるのは、同じジョッキーとして心外だ。
昔から競馬界にある「ヤラズ」という言葉についても、自分にとってはもはや死語であり、今の時代、「ヤラズ」なんてないと断言できる。命の危険をおかして騎乗しているのに、適当に乗るなんて考えられないし、「今日はヤラなくていいよ」なんていう関係者からの指示も聞いたことがない。
その騎手を選んで乗せているオーナーや調教師は、馬券を買っているファン以上に騎乗の一部始終を注視している。そんななか、やる気のない騎乗を繰り返そうものなら、あっという間に騎乗依頼が減り、淘汰されていく。それはどの世界でも同じだろう。でも、ノリさんの現状はそうではない。長きにわたり、トップジョッキーとしてその存在感が失われていないのは、関係者に技術が認められているからにほかならない。
▲キタサンブラックの逃げ切りを阻み、アンビシャスで大阪杯を制した横山典騎手 (C)netkeiba.com
ノリさんは、馬の気持ちを汲んで乗る感覚派だ。このコラムを始めた当初に書いたことがあるが、ノリさんや岩田くんは“感性の人”だと考えている。ふたりのように“感性”で乗れて、なおかつ結果を出せるのが理想だけれど、自分はその感覚が優れていなかったので、違う方向からのアプローチでトップを目指してきた。同じ土俵で戦ったところで、おそらく“感性”の部分では永遠に超えられないように感じた。だから今でも、その“感性”を羨ましく思う自分もいる。
質問者には“ポツン騎乗”ばかりが印象にあるのだろうが、実際のノリさんは、馬の気持ちと自分の感性に従い、あえて出して行くこともあれば、正攻法の競馬をすることもあるし、質問者の言うように離れた最後方からレースを進めることもある。毎日王冠のヒストリカル(11番人気)などは、ノリさんだからこその3着であり、あの馬の持ち味を最大限に引き出した結果だと思う。
もちろん一か八かの乗り方だから、「一」のときもあれば「八」のときもあるが、それがノリさんのスタイルであり、彼の個性。ノリさんだからこそ勝てたレースも数限りなくあるはずで、自分には大きな魅力として映る。あの騎乗は勇気と覚悟が必要で、誰にでもできることではないし、実際、それが魅力で依頼する関係者はたくさんいる。その事実がすべてだと言ってもいいだろう。
もちろん、関係者にもファンにも好き嫌いがあるのは当然だ。関係者でいえば、ジョッキーが自分の意にそぐわない騎乗をすれば次回からは乗せない人もいるし、ファンでいえば、「今回このジョッキーはどういう乗り方をするかな」とあれこれ予想をして、取捨選択をする。そのなかで、「今回〇〇騎手はあやしい」、あるいは「〇〇騎手の乗り方は嫌い」というなら買い目から外せばいいだけの事だし、ジョッキーそれぞれに“自分の乗り方”があるように、ファンにも“自分だけの予想”があるはずだ。
中舘さんに“逃げ”のイメージがあったように、言うなればノリさんの乗り方も技術に裏打ちされた個性だ。みんながみんな、個性のない乗り方をしていたら、競馬の面白みは半減すると思うのだがどうだろう?
最後にもう一度言うが、マクリや大逃げ、離れた後方待機など、一見して極端に見える騎乗も、その馬の能力をいかにして引き出すか、そのレースでいかに1着でゴールするか、試行錯誤のうえでやっていること。もちろん、一か八かの騎乗だけに不発に終わることもあるだろう。一方で、思い切った騎乗をしたからこそ、結果につながることがあるのも事実だ。それが競馬の面白さだと自分は思うのだが、こういう質問を見るにつけ、はたしてファンの多くが型にハマった競馬を望んでいるのだろうか…と、考えさせられる今日この頃である。
(文中敬称略)
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