どういうルールにも抱える大きな難点はあるが
5歳牡馬
ミッキーアイル(父ディープインパクト)が、3歳春のNHKマイルC以来、約2年6ヶ月ぶりのGI2勝目を記録し、同じく約2年7カ月ぶりのGI制覇を目指した同じ5歳牡馬
イスラボニータ(父フジキセキ)が惜しい「アタマ差」の2着だった。
行く構えを示せば単騎の逃げ確実だったミッキーアイルは、NHKマイルCでは前後半の800mを「46秒6-46秒6」=1分33秒2という粘り強い一定ペースの逃げ(デインヒル系の母の父ロックオブジブラルタルの影響か…)を示したので、平均ペースになることの多い京都のマイルではあまり飛ばさず同じような先行と思えたが、1200mに連続出走のあととあって、今回の前後半バランスは「46秒1-47秒0」=1分33秒1。前半1000m通過は「57秒5」。これでもふつうは無理のない平均ペースの範囲だが、先週の芝コンディションの中ではかなり厳しいペースだった。ゴール寸前の攻防を振り返ると(斜行は別として)、マークしてきたライバルに道中で脚を使わせたのだから、あまりペースを落とさなかったのが正解だった。
5〜6番手で巧みに流れに乗り、直線はインに入ると伸びない芝を考慮し、大事に外に回るくらいの余裕があったイスラボニータは届くかとみえた。だが、上がり3ハロンの数字は勝ち馬を0秒6上回る「35秒0」を記録しながら、アタマ差及ばず。イスラボニータ自身の詰めの甘さが出たと同時に、見た目ほど楽な追走ではなかったのである。ルメール騎手の「ノン、イクスキューズ(言い訳なし)です」というコメントには、前を行く2頭にもっと馬体を接近させるコース取りの方が「良かったかもしれない…」という無念がにじんでいたように思えた。
ルメール騎手の先週までのJRA成績は【158-93-86-77-57-205】。連対率.371。リーディング小差トップの戸崎圭太騎手より2着は27回も少なく、勝率は上位騎手のなかで光っているのに、どうもビッグレースでは2着が多いような気がするのは、人柄も関係するのだろうか。
直線残り1ハロンあたりから外に外に寄り始めたミッキーアイルは、ゴール前50mあたりでさらに外に斜行。
ネオリアリズム(父ネオユニヴァース)にぶつかるように押圧したため、ネオリアリズムのほか、追いついてきた
サトノアラジン、
ディサイファ、
ダノンシャークの4頭がぶつかり、とくにサトノアラジン(川田)、ディサイファ(武豊)は立ち上がって控えるほど大きな不利が生じてしまった。
「さすがにこれはひどい」という悲鳴が上がったが、現行の降着ルール通り「その不利がなければ、ネオリアリズム、サトノアラジン、ディサイファ、ダノンシャークが、ミッキーアイルより先に入線したとは認めなかった」ので、浜中騎手への制裁は別に入線順通り確定である。「先着できたかどうかなどだれにも解らない」から、入線順通りという意味も含む。危険騎乗で「失格」というほどは乱暴ではなかった。
どういうルールにも抱える大きな難点はあるもので、こういうルールを受け入れたのだから、やりきれなさは仕方がない。馬券ファンの側からすると、助かるケースも、泣きたくなるケースもあるから、自身で消化するしかない。ただ、もっと「ひどい斜行」には、「危険騎乗→失格」が適用されることになっているが、おそらくその境界線はずっと不確かなままでいるしかないのが現行の降着制度の怖さである。もうひとつ、心の中で怒りのファンに対するアナウンス、レポートが、「○○とは認めないので…」というマニュアルは、さすがにそろそろ変えた方がいいと思える。
「認めない」という表現の意味はさまざまで、判断できない、認識できない、という意味もあれば、許さない、という意味などさまざまなニュアンスがある。ファン(お客さま)に対する降着ルールの結果説明では、「審議の結果、○○とは判断(判定)できませんでした。あるいは、○○とは認められませんでしたので…」となるのが、ごくふつうの社会の事情説明の約束ごとであり、ごく自然なものの言い方と思えるが、それを「○○とは認めないので…」と切り出すものだから、実際には(裁決)では認識、判断できないという意味としても、JRAはいったい何様のつもりなのか、と内心みんな不快になるのである。JRAの内部では「認めない・認める」という高圧な態度や口のきき方で通用しても、一般の社会では、あれはめったに聞くことのできない非常に無礼な言葉使いである。
人気の5歳サトノアラジンは、あそこでブレーキを踏む形になっては、さすがにかわいそうだった。完全に立ちあがって追うのを断念するしかなかったディサイファもあまりに残念だった。
サトノアラジンは、これまでオープンのマイル戦で自身も追走に脚を使うとそれほど爆発的な脚は使えずに、「2、4、3、4」着だった。だから、スローのレースや、マイル以下なら1400mの方が好結果が出ていたが、今回は自身の前半1000m通過は、ゴール前の不利を考えると58秒2前後か。それでも最後にまだ伸びようとしていたから、いままでよりパワーアップし、本物になっている。
枠順の2番も、今回は不利に結びついてしまった。「つくづく運がない」などと嘆かずにまだまだビッグレースに挑戦したいものである。これまでの敗戦は運ではなく、実力不足である。早めにも動けて、それでも伸びた中身を自信につなげたい。
これが残り少ない「マイルのビッグレース挑戦」としていた7歳ディサイファは、それこそ残念無念。寸前でレースを断念するしかなく、結果は10着だが、まともなら馬券に関係するくらいの脚は残っていただろう。必死のレースだから「仕方がない……」と泣く泣くあきらめたファンのために、浜中俊騎手はさらに努力を重ね、いつかこの借りを返すくらいの活躍をしてもらおう。
巻き返しを図った
フィエロ以下の7歳以上馬は、これでマイルチャンピオンシップ出走の7歳以上馬【1-0-0-44】となり、第2のカンパニーにはなれなかった。
3歳
ロードクエストは、冷たいようだが前回の超スローの富士S9着で心配されたように、現状では総合力不足。再出発するしかない。4番人気の
ヤングマンパワーは、ここ一番に向けて馬体を絞りデキ絶好とみえたが、いいとこなしの16着。M.バルザローナ騎手(25)は将来を嘱望される注目ジョッキーだが、テン乗りで慣れないコースの多頭数のG1。残念だが、みんなR.ムーアのようにはいかないのだった。