▲所属の瑠星騎手(右)、主戦級となった中谷騎手(左)とのエピソードから、矢作調教師(中)の“人間力”に迫る
『2016年全国リーディング 特別企画』
2014年以来、2度目のリーディングに輝いた矢作厩舎。調教師、ジョッキー、スタッフ、門下生らのインタビューから、“厩舎力”に迫る特別企画。
まずは、矢作芳人調教師、坂井瑠星騎手、中谷雄太騎手の“師弟対談”を、2週にわたってお届けします。『馬にも愛、人にも愛』を信条とする矢作調教師。瑠星騎手を弟子として迎えた際の覚悟、さらに瑠星騎手の将来を見据えた大きな決断とは。厩舎の強さを生み出す、師弟の絆の物語です。
(取材・文:不破由妃子)
スタッフからの言葉が今でも一番の誇り
──本日はお忙しいなかありがとうございます。昨年二度目の全国リーディングに輝いた矢作厩舎の一大特集ということで、6週にわたってその厩舎力に迫っていきたいと思っているのですが、第1回の今回は、いまやすっかり主戦級となった中谷ジョッキーと所属の瑠星ジョッキーのエピソードを通して、矢作先生の“人間力”に迫っていきたいと思っています。矢作先生については、本当にいろんなジョッキーから“男気エピソード”を聞くので、今日はどんなお話が聞けるのか本当に楽しみです。
矢作 誰が俺の“男気エピソード”なんて話してるの? 本当にそんなのあるのかな。
──あります、あります。さっそくですが、厩舎のオフィシャルブログを拝見したら、先生にとって昨年は「激動の一年」だったそうですね。
矢作 この仕事をしていると、毎週毎週競馬を追いかけているから一年がすごく短く感じるものなんだけど、去年一年は長かったなぁ。本当に長かった。2月13日の時点でトップに立って、そこからずっとですからね。ずーっとトップというのは、やはりしんどい。しかも去年は体を壊してね(前立腺癌に罹患)。
──夏に入院、手術をされたんですよね。
矢作 そうです。まぁそういうこともあり、しんどい一年でしたね。だからすごく長く感じたんでしょう。
──先生が休養に入られて、厩舎の雰囲気に変化はありましたか?
中谷 先生は普段からあまり厩舎にいらっしゃらないので、雰囲気自体はそれほど変わらなかったんですが、スタッフみんなから「やってやる!」という気持ちがすごく伝わってきました。先生がいない間もずっとトップを守るのはもちろん、むしろ2位の厩舎を突き放すくらいの成績を挙げて、先生を安心させようと。
瑠星 先生に早く元気になってもらうためにもっともっと頑張ろうと、一丸になっていたと思います。
矢作 ホンマかいな(笑)。
瑠星 本当です!
中谷 先生、そこが矢作厩舎の魅力であり、武器ですよ。
矢作 入院する前、「俺がいない間に、もっと(2位と)差を広げておけ」って言ったんだよな。そうしたら、あるスタッフに
「いいから任せておいてください。先生はゆっくり寝ていてください」って言われて。その言葉は、今でも一番誇りに思ってる。
▲「いいから任せておいてください。先生はゆっくり寝ていてください」というスタッフからの言葉が一番の誇り
──去年はそういったことも含めて、まさに“厩舎力”が発揮された一年だったのではないかと。
矢作 本当にそうですね。もう感謝しかないです。みんな本当によく頑張ってくれた。ただ、悔しいこともたくさんあったので、新しい年に向けてさらにやる気が湧いた年でもあります。だから今年は大丈夫。
──なぜ“今年は”なんですか?