遅れてきた大物ファンディーナ ソウルの天下を脅かす可能性/吉田竜作マル秘週報
◆“桜花賞への最後の切符”を狙う「遅れてきた大物」
ひと昔前は3月を迎えると、当コラムの話題も3歳馬から2歳馬へとシフトしていったものだが、ご存じの通り、若駒をめぐる環境はかなり変化している。
記者がこの世界に入った20年前は、まだ冬の名残が感じられる中でも「この2歳馬で(夏の)函館に行くんだ」という言葉が飛び交うほど、即戦力候補がトレセンへ入キュウしていたものだが、今や「調教師免許の更新の面接で“あなたのところは出走回数が少ないようですが”と聞かれる」(某調教師)時代。時間をかけて2歳馬を調教する余裕はないのが実情だ。
北海道やトレセン近郊の育成牧場でギリギリまで仕上げてもらって、レースが近くなってから入キュウするのは、もはや“定石”。美浦では数頭がゲート試験をパスしたようだが、栗東ではいまだに入キュウ馬はいない。というわけで、2歳馬の話題もないわけではないが、もうしばらくお待ちいただきたい。
もっとも今回はそうした事情とは別に、触れておかねばならない3歳馬がいる。超新星のごとく現れたファンディーナ(牝・高野)だ。1月22日の京都芝外1800メートル新馬戦で2着に9馬身差の圧勝を飾ると、続く500万下・つばき賞(京都芝外1800メートル)でも難なく好位から抜け出して連勝。500キロを超すディープインパクト産駒の大型牝馬で、文字通り「遅れてきた大物」と呼ぶにふさわしい。
POGのベテランならデビューが遅くなった背景は想像がつくだろう。「もっと早くデビューさせるつもりでしたが、やはり巨漢馬は仕上げが難しいところもあって…」という高野調教師の言葉少なの説明が、ここまでの道のりの険しさを物語っている。
もちろん、調整の難しさはデビュー前だけでなく、連勝を飾った後の、これからもついて回る問題。短期放牧に出されていたこの中間も、トレーナーは入念なチェックを怠ってはいなかった。
「放牧先で前走のダメージが抜けるのを慎重に確認しました。サイズの割にカイバを食べないところもあるのですが、うまく気持ちがフワッとなったというか、リラックスしてくれて。トレセンに戻せるなと思いました」
2日に帰キュウしたファンディーナがまず目指すのはGIIIフラワーC(20日=中山芝内1800メートル)。誰もが“桜花賞への最後の切符”を意識するところだろうし、それは高野調教師とて同じこと。「このレースから桜花賞へと向かった馬の成績が悪くはないことはわかっていますから」
ただ、オーナーサイドも、トレーナーもフラワーC後に使うレース名を明言してはいない。前述通り、調整に難しい面を抱える上に、桜花賞への出走賞金ラインを超えるには「最低でも2着」という高いハードルが待ち受けている。
「まずはフラワーCを走って、結果が出たとしても、馬がどうもないことを確認してから。(桜花賞の)話はそれからですね」
ファンディーナのあふれんばかりの才能をじかに感じているからこそ、「まずは一戦一戦」と慎重になり、周囲にも理解を求めているのだろう。ただし「慎重=弱気」というわけではない。
「練習ではゲートも出なかったので、新馬戦の時は“先々を考えて、少なくとも馬群に取りつく競馬をしてください”とオーダーしたら、ゲートをポンと出てしまって(苦笑い)。2走目は強い逃げ馬(2着タガノアスワド)がいてくれて助かりました。ここ2走が思った以上に走ってしまって、“バレてしまった”感じはありますが、とにかく無事にいってくれさえすれば…」
いずれにせよ、すべてはフラワーCの走りにかかっている。その内容次第では、ソウルスターリング一色ムードの牝馬クラシックの勢力図を覆すことになるかもしれない。