残り2Fで8馬身もの差を逆転した、驚くべき爆発力
前日10月13日(土)の「府中牝馬S」を勝った4歳牝馬ディアドラ(父ハービンジャー)の強さには、相手をねじ伏せる凄みがあった。2キロ軽い54キロで抜け出しかかったリスグラシュー(父ハーツクライ)に騎乗し、「クビ」差2着のM.デムーロ騎手でさえ残念がるより驚いている。「勝った馬が強すぎた」。驚嘆のフレーズがすべてを表している。

上がり32秒3でリスグラシューをねじ伏せたディアドラ(撮影:下野雄規)
そのディアドラのC.ルメール騎手が乗った秋華賞の3歳牝馬アーモンドアイ(父ロードカナロア)は、軽々しくいえるものではないが、こと3冠目(秋華賞、1995年以前はエリザベス女王杯)の勝ち方に限定するなら、「2012年ジェンティルドンナ、2010年アパパネ、2003年スティルインラブ、1986年メジロラモーヌ」の4頭よりずっと強く、かつ鮮やかだった。
直線の短い内回りで一番外に回ったアーモンドアイと、楽に逃げ切り態勢に入ったミッキーチャーム(父ディープインパクト)との差は、4コーナーでどのくらいあったろう。送られてきた映像からすると(角度があって難しいが)、まだ推定8馬身前後はあったと思える。最後にちょっとだけ脚いろの鈍ったミッキーチャームの上がりは35秒4(11秒5-11秒8-最後12秒1)。対して、1馬身半も差し切ったアーモンドアイの上がり3ハロンは「33秒6」だった。
残り600mから400mまでレースラップは「11秒5」。ここでは少ししか差が詰まっていないから、残り400mのレースラップ「11秒8-11秒9」のあいだに、アーモンドアイは約8馬身もの差を逆転。さらに1馬身半も抜けたことになる。一気に突き抜けた最後の200mは推定「11秒0」前後だった。

見事に史上5頭目の牝馬3冠馬となったアーモンドアイ(c)netkeiba.com
2着ミッキーチャームは自身「59秒6-59秒1」=1分58秒7。ふつうならきれいな逃げ切りが決まったレースであり、現時点での能力は出し切った。
レース展望に出てきたように、春より距離短縮となる過去22回の秋華賞では、すでに「ファビラスラフイン、テイエムオーシャン、カワカミプリンセス」の3頭が春のG1以来それぞれ約5カ月ぶりで勝っている。だから、予定通りの5カ月ぶり圧勝はアーモンドアイにすればたやすいことだったろうが、それにしても驚くべき爆発力だった。
決して相談してのコメントではないのに、国枝調教師も、ルメール騎手も、5カ月ぶりの今回は「8分くらいの仕上がり」「仕上がりは80%くらい」で一致する。まだまだ、もっと良くなる可能性があるとしている。
3着カンタービレ(父ディープインパクト)は、展開を読んで一転、差しに徹する作戦。アーモンドアイをマークする形で0秒4差なら上々だろう。
ラッキーライラック(父オルフェーヴル)は決して悪くない状態に仕上がっていたが、いきなりのテン乗りは厳しかったのか、強気な北村友一騎手にしてはちょっと弱気だった気もする。
アーモンドアイに次ぐ33秒8の上がりを記録したプリモシーン(父ディープインパクト)は、外枠でスムーズな追走にならなかったためか、3コーナーで最後方に下がってしまった。これでは苦しい。
ルメール騎手で府中牝馬Sを制したディアドラは12月の香港Cを予定するとされる。アーモンドアイはこのあとジャパンCの公算が大きい。そのルメール騎手には、28日の天皇賞(秋)に出走するレイデオロもいる。毎日王冠を勝ったアエロリットはマイルチャンピオンSと思えるが、オーナーはそれぞれに異なっても、みんな同じノーザンFの生産馬である。
できるなら分散して出走し,より多くのビッグレースを勝ちたい展望がある。この秋に一段と飛躍したトップホースの対決はどのレースになるのだろう。有馬記念向きは、一応レイデオロだが…。注目の対戦の実現は来季のことになるかもしれない。
それにしても、ここ10日間の「牝馬」はすごい。6日にオーストラリアでウィンクスが28連勝(通算32勝)を決めたあと、7日にアエロリットが4カ月ぶりで牡馬相手に快勝。その夜の凱旋門賞では型破りの日程(今年2戦だけ)でエネイブルが2連覇を決め、2着も牝馬シーオブクラス。そして13日にはディアドラが強烈に勝ち、14日にはアーモンドアイが牝馬3冠を達成してみせた。

凱旋門賞は4歳牝馬エネイブルが2連覇を飾った(撮影:高橋正和)
今週の菊花賞。3歳牡馬の快走、激走を期待したい。