▲桜花賞に続いて天皇賞(春)制覇に挑む国枝栄調教師(撮影:下野雄規)
先日7日の桜花賞を、見事ステレンボッシュで制した国枝栄調教師。28日に行われる天皇賞(春)には、武豊騎手との初コンビを組むサリエラで参戦します。
今回は2頭の強みや今後への期待、レース選択の理由などたっぷり語っていただきました。アーモンドアイ、アパパネらを送り出し、数々のGIを制してきた名伯楽。しかし、まだ引退までに叶えたい“夢”があるそうで──。
(取材・文:和久時秋)
71年ぶり牝馬Vへ「俺がやってやるぞと(笑)」
──ステレンボッシュの桜花賞制覇、おめでとうございます。戦前の手応えはどうだったのでしょうか。
国枝 馬も2回目の栗東滞在で、カイバもよく食べていたからね。気温が暖かくなっていたので体重自体はそこまで増えていなかったけど、筋肉の張りが良くて落ち着きもあったので、これならいけるんじゃないかなと思っていました。
──昨年の阪神JF2着からの逆転でした。
国枝 あの時はレースのアヤというか、直線で進路を切り返すところもあって、真っすぐ走れたわけじゃなかった。だから負けはしたけど、うまくいけば逆転は十分狙えるんじゃないかと思っていたよ。あとはなんと言ってもモレイラだよね。鞍上が鮮やかに、事もなげに乗って馬の能力を十分に発揮させてくれたというレースだったよね。
▲ステレンボッシュを労うモレイラ騎手(c)netkeiba
──勝てると思った瞬間はどのタイミングでしょうか。
国枝 直線に向いて、宏司の馬(アスコリピチェーノ)をはじき飛ばしながら外に出した時かな。直線でバテるような馬じゃないから、これは最後まで伸びてくれるだろうなと。この馬は負けた時も前をつかまえきれなかっただけで、後ろから差されたことがない。明らかに力が上の馬だと思っていたからね。
──国枝先生はこれまでアパパネ、アーモンドアイといった三冠牝馬を育ててきました。そういった名牝と比較して、ステレンボッシュが劣らないポイントはありますか。
国枝 メンタルの部分もそうだけど、馬自身が持っている雰囲気。馬体のサイズや作りといい、桜花賞を勝った時点での評価としてはアパパネやアーモンドアイと遜色ない馬だと思っています。桜花賞後もあの2頭は活躍してくれたので、ステレンボッシュも体調をきちんと整えてさえいければ、2頭に続けるくらいの馬になってくれるんじゃないかなと期待しています。
──桜花賞とオークスは距離が800m異なりますが、この両方の距離に対応できるのはどのような馬ですか。
国枝 やっぱり折り合いに問題がない馬だよね。阪神JFや桜花賞といった主要路線で上手に競馬できる牝馬であれば、大体は距離が延びても大丈夫。大抵はそういう馬なら距離が延びようが能力を証明できると思いますよ。
──続いて、天皇賞(春)に出走するサリエラについて伺います。ダイヤモンドS2着からの臨戦になりますが、3400mの長距離を選択した理由はいかがお考えですか。
国枝 牝馬らしくサイズは小さいけど、そんなに気のいいタイプでもなくて、道中は少し仕掛けながら走らせるようなタイプ。そういう部分もあって長距離適性を感じての出走でした。
──結果は2着でした。このレースの走りを受けて、長距離戦での手応えの変化はありましたか。
国枝 この馬としては道中で少し(ハミを)かんでいたかな。初めてチークをつけた影響があったのかもしれない。ただ、道中で力んで走りながら、テーオーロイヤルとクビ差なら十分でしょう。この路線の牡馬とまじっても戦える手応えは感じたし、次はチークをつけなくてもいいだろうからね。
▲初の3400m戦に対応したサリエラ(ユーザー提供:淳。さん)
──前走後は放牧を挟んで栗東入り。これまでと比べて状態はいかがでしょうか。
国枝 去年のエリザベス女王杯(6着)前は体が減ったこともあって、もうひとつかなと思っていたけど、それでも競馬はそれなりに頑張ってくれた。今回は栗東入り後もそんなに体が減ってなさそうだよ。この馬もステレンボッシュと同じように、2回目の栗東滞在で良くなっているんじゃないかな。
──去年はこの馬らしくない敗戦もありました。敗因はどのように捉えていますか。
国枝 常にベストの状態を求められると、去年は少し難しい状況だったのかも。新潟記念(7着)の時は牧場から直接、新潟競馬場に入ったんだけど、レースまでに順調さを欠くところもあって、ようやく間に合ったという感じだった。エリザベス女王杯は初めての栗東滞在で体が減るところがあったから。
──サリエラの完成度は現状どれくらいですか。
国枝 もっと良くなると思うよ。姉のサラキアも5歳の秋にグンと良くなって、引退レースの有馬記念も好走した。あの成長力はなかなかのもんだよ。サリエラもそれくらいの成長力があるんじゃないかな。元々の素質が高く、クラシックでもと期待していた馬。ちょっと歯車がかみ合わない時期があったけど、ここへ来て良くなってきたから、やっぱり成長力がある血統と思っていいんじゃないかな。まだ超一流とまではいっていないけど、現状でも重賞を勝てるレベルにあると思っている。そういう意味でも、ここで格好をつけてもらいたいよね。
──去年は凱旋門賞にも予備登録していました。
国枝 正直なところ、長距離輸送を考えると、サリエラに関してはちょっと心もとない部分がある。まだ線の細さみたいなのが残っているというか。そういう意味ではステレンボッシュの方が、精神的にも海外遠征に向いている気がするけどね。
──“牝馬王国”の国枝厩舎が53年レダ以来、71年ぶり牝馬Vの偉業に挑みます。3年前はカレンブーケドールが3着に頑張りました。
国枝 カレンブーケドールはいつも惜しいところまでいくんだけどね(苦笑)。GIで2着が3回、それで天皇賞(春)は3着だもんなぁ。
▲GI戦線で活躍した牝馬カレンブーケドール(ユーザー提供:kenzanさん)
──牝馬の長距離戦は厳しい条件なのでしょうか。
国枝 牡馬と2キロの斤量差があるんだから、長距離の適性さえあればいけるんじゃないかな。それはカレンブーケドールの時に感じたかな。
──過去に国枝厩舎が育ててこられた名牝と比較して、サリエラがそれらの名牝に劣らないポイントなどはありますか。
国枝 折り合いや末脚はいいモノがある。まだ頼りない部分はあるんだけど、 そういう意味でも今回の鞍上は心強いよね。
──今回初コンビを組む武豊騎手とはお話などはされたのですか。
国枝 まだ。これからいろいろ話すと思うけど、レースだけ乗ってもらうつもり。繊細な面がある馬なので、調教から武くんが乗ったら馬が(レースだと)感づいて仕上がり過ぎちゃうから(笑)。乗り難しいタイプでもないから、こちらとすれば体を維持して、本番で“頼んだぞ”という感じかな。でもやっぱり、長距離のユタカは頼もしいよ。
──国枝厩舎にとっても、09年マイネルキッツ以来、15年ぶりの天皇賞(春)制覇が懸かります。
国枝 キッツは人気がなかったんだよね(12番人気1着)。あの時はレース前から手応えがあったんだけど。翌年も2着に走ったし、結果的に2連覇を狙えるだけの馬だった。キッツはトントンと出世したわけじゃなくて、条件クラスから地道に成長していった。すごい成長力だよ。そういう意味では古馬になって強くなる馬は面白いよね。天才肌じゃなくてね。サリエラも良血とはいえ、順調にいかない時期もあって表街道を歩んできたわけじゃないから。マイネルキッツみたいに地道に強くなっているところが少しかぶるよね。
──最後に意気込みをお願いします。
国枝 71年ぶりの牝馬制覇が懸かるというのがエポックメーキングなところだよね。(76年ぶりの皐月賞牝馬Vを狙った)レガレイラが負けちゃったから、俺がやってやるぞと(笑)。あと、俺は武くんとGIを勝ったことない。サトノフラッグの弥生賞が今のハイライトみたいになっちゃっているからね。俺が(26年2月に)引退する前に、ユタカとGIを勝ちたい。そう思っています。
▲今度はGIの舞台で共に口取りを(撮影:下野雄規)
(文中敬称略)