競走馬になるために生産されたサラブレッドたちは、この世に生を受けた時から淘汰の連続だ。競走生活を終えたのちも厳しい現実が待ち構えている。種牡馬や繁殖牝馬になれる一部をのぞいては、引退競走馬たちのほとんどが「乗馬」という名目で競走馬登録を抹消されるが、本当の意味での乗馬となれるのはごくひと握り。乗馬となれなかった馬たちは、食用への道を辿ることになる。そのような馬たちを1頭でも多く第二の馬生へと繋げるために、引退馬競走馬のキャリア支援を目的とした「サンクスホースプロジェクト」のオープニングセレモニーが、7月2日(土)に、岡山県吉備中央町の岡山乗馬クラブで開催された。
この日はサンクスホースプロジェクト発起人の角居勝彦調教師と、引退競走馬の再調教を担当するNPO法人吉備高原サラブリトレーニング理事長で岡山乗馬クラブ代表の西崎純郎氏との
スペシャルトークショーや、「ホースセラピーの今」と題して障害者が実際に馬に乗っている様子を披露しながら、精神科医の北山幸雄氏、作業療法士の林原千夏氏が、障害のある人たちへのホースセラピーの活用について話をした。競走馬になれなかった馬を西崎氏が実際にリトレーニングをして馬術の全日本チャンピオンに輝いたドリーム・ハート号の障害飛越の実演などが行われ、会場は大いに盛り上がった。
岡山乗馬倶楽部のある吉備中央町も、引退した競走馬のセカンドキャリアノサポート体制を整え、この1日には「ふるさと納税」を活用した資金を調達を行うガバメントクラウドファウンディングも始まり、2億200万円を目標に12月末まで受け付けをしている。なお「ふるさと納税」は、競走馬のリトレーニングを始めとするサンクスホースプロジェクトの事業へと使用される予定だ。
またサンクスホースプロジェクトには、基本会費月額1000円で引退した競走馬を支援する引退馬ファンクラブTCCがある。月4000円でTCCで募集する馬の1口オーナーになる仕組みもあるが、こちらは1か月の募集期間に40口が集まるとTCCホースとなる仕組み。6月1日に募集を開始した7頭の中から
グラッツィア(セン8・岡山乗馬倶楽部)、
ラッキーハンター(セン5・岡山乗馬倶楽部、
サトノジェミニ(セン6・
アイランドホースリゾート那須)、
アンジュドゥロール(牝3・NABARI HORSELAND PARK)が40口を達成し、TCCホースとなった。TCCホースとなれなかった馬たちについても、今後も引き続いて居場所の情報管理などを行っていくという。
「ケガをしたり、運がなかったり、タイミングが合わなく勝てなかった馬たちが、このような素晴らしい環境で新しい馬生、セカンドキャリアを積むことができるようになり、行政や団体、大学関係者も含めて賛同して頂けるということで、サラブレッドの道が新しく開けたなと思います。ますます大きな活動にしていきたいですが、まだオープニングですのでどこまでできるかまだ見えていないところもあります。ただ馬だけではなく人のサポートも圧倒的に必要な活動ですので、是非いろいろな形で皆さまに賛同して頂きたいです」と角居師は、セレモニーの冒頭の挨拶で語っていたが、この動きが引退した競走馬たちの希望の光となることを、そして全国的にこのうねりが大きく広がっていくことを期待したい。
(取材・文:佐々木祥恵)