7月24日午前9時23分、田中章博調教師が病気のため亡くなった。62歳だった。
「祖父・良雄も、父・良平も騎手であり、調教師でした。わたしは父系で三代目の調教師なんです」と話していた田中章師。トレセンがなく競馬場で馬を管理していた時代は厩舎に多くの来客があった。祖父が名伯楽・伊藤勝吉師の弟子だったため、田中章師は幼少時から伊藤一門の下で多くの競馬関係者に囲まれて育った。
「馬主さんに喜んでいただきたい。それが一番です」
競馬の勝ち負けで歓喜する人々の中で育った田中章師ならではの言葉だった。
調教では、馬たちに対して極力ストレスを溜めないように努め、そのためにいろんな手段を考えて実践してきた。たとえば、極端にゲートを嫌がる馬にはゲート内で縛るという手法をとる場合があるが、田中章師はそんなときはあえてその馬をプールに連れて行った。
「ゲートに入らない馬を無理にゲートに押し込めるのはストレスにつながります。でも、プールで狭い場所に慣れさせるとストレスも少ない上に効果も上がりやすいんですよ。栗東トレセンのプールは円形と直線の2種類がありますが、直線のほうは退路のない狭いかたちで山と逆の形で徐々に深く浅くなっていきます。その一番深くて狭い場所で馬をとめ、シャワーを当てるなどして刺激するんです。すると、馬は狭い場所に留まることに慣れるのか、以前よりゲートでの駐立がスムーズにいくようになるんです」
そんな田中章師が病魔に襲われた。非常に例の少ない珍しい病気で、長い間、闘病を強いられた。それでも「わたしは諦めるのが嫌い」と力強く話し、持ち前の負けん気で真っ向から病気と闘い続けた。
管理馬
キングズガードはこの春、3連勝ののちに重賞3着。さあこれからという時の訃報。ご本人は無念極まりないはずだ。
心優しい田中章師、心よりご冥福をお祈り申し上げます。合掌。
(文:花岡貴子)