現役の
JRA調教師が、
ゴリラの写真集を出版して話題となっている。タイトルは「GORILLA My GOD 我が神、
ゴリラ」。帯には「異色の調教師
ゴリラ愛炸裂!!」とある。あとがきの中にも記されている「天狗山」とも称される美浦トレセンの調教師スタンドで、小桧山悟調教師に写真集について話を聞いた。
父親の仕事の関係で、1969〜1970年の間、ナイ
ジェリアに暮らした経験がある。当時のナイ
ジェリアはビアフラ戦争の真っ最中で、高校1、2年の多感な時期を戦火の中で過ごした。そのナイ
ジェリアで、運命の出会いがあった。
「ナイ
ジェリア・イバダン大学の中にある動物園に行った時に、飼育員が檻から
ゴリラの赤ちゃん連れてきて、抱っこさせてくれて…」
直接
ゴリラに触れる。滅多にない経験をした。毛むくじゃらの顔の中で輝くつぶらな瞳の虜になった。その後も時間を見つけては動物園に通い、
ゴリラとの触れ合いは続いた。
ゴリラの研究者になりたいという気持ちもあったが、同時期に出会った馬にも心魅かれた。やがて馬が仕事となって、40年近い歳月が流れ、その間、
ゴリラへの思いは封印されていた。
封印が解かれたのは、3年前だった。移動中の飛行機の中で機内誌にあったアフリカの「
ゴリラトレッキングツアー」の記事を目にして、断ち切ってきた
ゴリラへの憧れが再燃。2013年夏、ツアーに参加した。それ以降、これまでアフリカには8回通い、標高2000〜3000m級の山で、小学生時代からの趣味のカメラを手にして
ゴリラと向き合った。普段から馬と接していることもあり、
ゴリラの動きは読めるというが、それでも「ピントが合うようになったのは去年。年数がかかった」と、緑が深く光の少ない山中での撮影の難しさを語った。
訪れた場所の1つに、ルワンダにある
ヴィルンガ国立公園がある。密猟などから手厚く保護されているその公園の
ゴリラのほとんどのグループは、“人づけ”が済んでいるため、人間を必要以上に気にかけないという。その場所のツアーのルールの1つに「原則7m以内には近づかない」という項目があるが、逆に言えば7mまでなら近づけるということ。撮影した写真は臨場感にあふれ、威厳に満ちた群れのリーダーをはじめ、表情豊かな
ゴリラたちが満載なのも頷ける。
師は絶滅危惧種のマウンテン
ゴリラを「山の神」と呼ぶ。山から降りると必ず地元の村に立ち寄って、今度は「里の神」と呼ぶ子供たちの写真を撮影する。写真集には、純真無垢なとびっきりの笑顔の子供たちも掲載されている。また師の綴る
ゴリラトレッキングツアーのドキュメントは、まるでその地に同行させてもらったかのような錯覚すら覚える。
想像以上に、内容の濃い一冊。人間臭く表情豊かな
ゴリラや子供たちの輝く笑顔が、猛暑に疲れた心身を優しく包んでくれるだろう。
(取材・写真:佐々木祥恵)
「GORILLA My God 我が神、
ゴリラ」
株式会社マガジンマガジン発行
1,200円(税込)