「去年(6月5日)がロゴの日なら、今年(6月4日)はロジの日だな」
ロジチャリスを送り出す
国枝栄調教師が戦前にこう話した
安田記念。むろん競馬が語呂合わせで毎度決まるはずもなく、レースも戦前のイメージとは正反対のハイペース(前半3ハロン33秒9)に。同じ逃げでも堂々の力勝負に出た田辺=
ロゴタイプには、前年王者の意地もあったのだろう。レース後には同馬を本命にした当方に「この時計(1分31秒5)でも踏ん張って力は証明してくれました。ただ、クビ差はやっぱり悔しい」と担当する佐々木悟助手からメールが。まったくの同感だが、終わってみれば今年は「サトノの日」だったと割り切るしかない。
もっとも「サトノの日」を痛感したのは、
安田記念で
サトノアラジンが勝ったからだけではない。同日の3歳上500万下(ダ2100メートル)を勝った
サトノティターン――。実はこの馬の走りこそが象徴的だった。「久々もあって気持ちがかなり入っていた」とマジックマンことモレイラは語ったが、
オルフェーヴルの
阪神大賞典(2012年=2着)をほうふつさせる“珍獣”ぶりを
サトノアラジンの前祝いとばかりに発揮したのだ。
衝撃シーンは残り2ハロンを過ぎて先頭に立った瞬間だった。何かに驚いたように、馬が突然大きく外へ斜行。それは内ラチ沿いから実に8頭分、まさに瞬間移動とも言うべき“欽ちゃん走り”。場内はどよめきに包まれたが、これで終わらなかったのが“珍獣”の“珍獣”たるゆえん。
鞍上が立て直そうと右ステッキを入れると、今度は内へ大きく斜行。そのアクションを止めると今度は再び外へ。それは逮捕された
タイガー・ウッズも顔負けのフラつきだったが、鞍上がステッキを使うことを諦めた途端、再び加速して難なく先頭でゴールしてしまったのだから恐れ入る。“一人借り物競走”と呼ぶべきその蛇行Vには、2着馬の単勝を握りしめていた当方も、笑うしかなかった。
当然ながら馬には平地調教再審査が課せられたが、今回が10か月ぶり2度目の実戦だったことを踏まえると、秘めるポテンシャルは相当なもの。「能力があるのは分かったけど、もう少し精神面の成長が欲しい」とモレイラは語ったが、同じ冠名の安田V馬を印象度で食ってしまったのも確かである。堀厩舎らしからぬ“問題児”の次走が今は待ち遠しく、次なる「サトノの日」を内心期待している。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)
東京スポーツ