今週日曜、小倉2歳S(GIII)では藤田菜七子、
荻野極、三津谷隼人らデビュー後3年に満たないフレッシュなジョッキーたちが手綱をとる。彼らは通算100勝以下(地方交流を含む)であるため、平場のレースでは“見習い騎手”という扱いで負担重量が軽くなる恩恵を受けている。しかし、重賞でその特典はないため、なかなか騎乗のチャンスには恵まれないのが現実だ。つまり、彼ら若武者にとってこの一戦はとても貴重なものなのだ。
今年でデビュー3年目の三津谷隼人騎手(20歳、栗東・目野哲也厩舎所属)は今回が2度目の重賞挑戦。8月19日の未勝利戦で
ニシノダンテを勝利に導いた縁で今回も鞍上を任された。
ニシノダンテを管理する田所秀孝調教師は未勝利戦勝利から今回の騎乗依頼までの過程を振り返る。
「それまで適性を見込んで芝で2戦しましたが、少しソエが出てきたので次は脚元への負担を考えてスピードの生かせるダート短距離戦へ。初ダートで距離も1000mと短いので、“少しでも馬に負担のない騎手に任せたい”ということで51キロで騎乗できる三津谷くんに依頼しました。
ニシノダンテはスタートそのものは普通だが、仕掛ければスッと前につけられる馬だと考えていました。だから、前に行くように指示をしたところ、三津谷くんは実にうまく乗ってくれた。後続に5馬身離し、勝ちっぷりもよかった。これなら、重賞も任せられると思ったんです」
三津谷騎手はこの勝利で今期6勝目をあげた。
「先生の指示どおり、スムーズな競馬ができました。1000mという短い距離でも一本調子にならず、いったん息を入れたあと4コーナーで気合を入れたら伸びてくれました」
小倉2歳Sまで中1週。馬のコンディションは夏負けもなく、引き続き良い。騎手の大先輩であり調教師として2002年にこのレースを
メイプルロードで制している田所師は、三津谷騎手に教えるように小倉2歳Sでの乗り方を指南する。
「2歳の夏と若くてまだ競馬をわかっていない馬も多い上に、小倉の芝1200は平坦な小回りコースだからト
リッキーな要素が少ない。若い騎手たちも比較的乗りやすい重賞なんです。枠順や馬の並び、馬場などによって多少は変わりますが、基本的には前々で競馬をさせたい。でも、何が何でも競ってでもいいから前を追いかける、というのはないです。前回のように自分で自然に前につけられるような競馬をさせるのが理想です」
田所師「大事なのは、その上で“どこまで前を追いかけていくか”。追いかけすぎるとラストまで脚がもたない。かといって、早く仕掛ければ後ろからきた馬にやられる。そのあたりをうまく判断してほしい」
三津谷騎手「はい!」
田所師「仮に道悪で内枠だったら、思い切って内ラチピッタリでまわってきてほしいね」
三津谷騎手「はい!!」
真剣な面持ちで答える三津谷騎手には“このチャンスをモノにしたい”という必死さがうかがえる。そんな若武者に田所師は、
「あとは重賞を楽しんでおいで」
と優しく声をかける。厳しい夏の戦の裏で、なんとも微笑ましい一幕が垣間見えた。
「とにかくこの馬のことを考えながら、田所先生が言ってくれたように自分も楽しめるように精一杯頑張ってきます」(三津谷騎手)
(取材・写真:花岡貴子)