競馬場は勝負の世界です。それ故に、“運”を重要視する方は多いものです。この、目では見えずお金でも買えない主観的評価に過ぎないものを、“持っている”かどうかが、時に馬や人の評価につながったりもします。
エリザベス女王杯の有力候補である
モズカッチャンを担当する古川秀太助手は、明らかに“持っている”方です。最近は諸所の事情で調教助手や厩務員になることですら難しい時代なのですが、そんな中で競馬場にまったくご縁の無かった方であるにも関わらず「大学卒業後、牧場につとめながら競馬学校は1回で合格。卒業後はしばらくして
鮫島一歩厩舎に就職しました」(古川助手)という経歴。もうね、業界的にはこれだけで“この方はかなりの
ラッキーボーイ”という印象を抱かされるものなのです。
そこへきてさらに「はじめての担当馬が
モズカッチャン」となれば、この運の強さは大げさではなく驚異的! 現在、
キタサンブラックを管理されている
清水久詞調教師が調教助手になってすぐに
桜花賞馬
ファレノプシスを担当した、という引きの強さを思い出したのは言うまでもないです。
古川助手は関西学院大学馬術部のご出身。学生時代、毎日馬と接している中でこの仕事に就こうと心に決めたそうです。
「就職活動の時期になると、周囲はみなスーツで会社訪問を繰り返していました。その中で、僕も銀行を受けたりもしました。でも、やはり馬の世界への魅力は捨てきれませんでした。両親も『好きなことをしなさい』と応援してくれましたので、大学卒業後に宇治田原優駿ステーブルへ入ってこの世界を目指しました」
鮫島一歩厩舎に入って、新馬6着、未勝利3着と既に2戦していた
モズカッチャンの担当になりました。
「初めての担当馬ですから、皆さんのアド
バイスをいただきながらも無我夢中で世話をしました。2月に小倉で未勝利を勝っただけでも感激したのに、その後は重賞の
フローラS(GII)まで3連勝。それだけでも十分すぎるくらいうれしいのですが、次はGI・
オークスということでやはり“勝ちたい”と気持ちが入りましたね」
その
オークスでは無念の2着。
「このときは、悔しくて悔しくて…。迎えにいった検量室で無意識のうちに涙が出てしまいました」
やはり、大レースの渦中にいると感情は抑えられないようです。
「先輩たちはどんなときも冷静に対応しているじゃないですか。もちろんそれが目指すところなのですが、まだ自分も気持ちを抑えられそうにありません」
いやいや、立派な大先輩の中にも人目をはばからず号泣する方もいらっしゃいますから(笑)。そのあたりはこのままでいいと、私は思いますよ。そんな中であえて質問。もしも、GIを勝ったらまた泣きますか?
「はい、勝ったら泣くと思います!」
モズカッチャンはもともと叩き良化型のようで、今回は叩いてさらに状態は良くなっているそうです。
「
秋華賞は道悪だったので反動を心配しましたが、問題なさそうです。むしろ、状態は上向いていますよ」
心身ともにタフ。名馬は人を育てるといいますが、古川助手にとってもその言葉は当てはまるようで「日々、カッチャンに教えて貰ってます」と感謝の念に堪えないそうです。
そうそう、古川助手は
モズカッチャンのことを「カッチャン」と呼んでいますね。イントネーションは松本人志さんの愛称“マッチャン”と同じでした。ですので、ファンの皆さんもぜひそのイントネーションで「カッチャン」と呼んでみてください。
ちなみにご家族は引き続き、熱心に応援されているとのことでした。
「実家は電気屋なんです。以前はテレビで普通に地上波の放送を流していたんですが、いまは
モズカッチャンのVTRを流してくれているんです(笑)」
たくさんの愛情に包まれて、“カッチャン”は12日、3枠5番のゲートに入ります。古川助手の泣き顔は見れるかな? 乞うご期待!
(取材・写真:花岡貴子)