日本ダービーを2日後に控えた金曜の夕刻。取材を終えて厩舎地区を歩いていると「今年も小倉に行くんですよね?」と呼び止められた。声の主は本間厩舎の三野助手。
「もうすぐ
コチョウジュニアの弟(
ベルウッドコチョウ)が入ってくるんですよ。今年は彼と忘れ物を取りに行きます」
その忘れ物とは
コチョウジュニアが直前のソエで出走を断念せざるを得なかった「九州産馬の大一番」
ひまわり賞のタイトルを持ち帰ることだ。
「ここまでやってきたのに…」と馬房で脚元に触れながら無念を伝える、三野助手の表情は1年を経ても忘れることはない。今年は残念ながら新潟から応援することになりそうだが、あの悔しさがあるからこそ大きくなれる。それぞれの決意を胸に、2019年夏はもう間近――ときれいにまとめるには、ネタが先行し過ぎか。やはり今、そこにある新馬戦の話題から入らないと…。
「ボーッと生きてるわけじゃねーから」と独特の言い回しでこれまでを振り返ったのは木村調教師。先週終了時点でわずか9勝止まり。昨年、受賞した
JRA賞のタイトル(最高勝率&
優秀技術調教師)が重荷になっているのか…。カミナリが落ちるのを承知の上でそのあたりを突っ込んでみたところ、「昨年と今年は俺にとっては別世界だから。今までやってきたことが通用しないのがこの世界。だから完成形なんてあり得ない」と口にした後、こう続けた。
「勝つにせよ、負けるにせよ、翌週に牧場へ行ってケロッとしている馬の姿を見ると“まだ走り切っていないんだな”とよく考えさせられる。性別や年齢に関係なく、能力を引き出すためには何が必要なのか、もっと突き詰めていかないと。これまでの経験と失敗を糧に、今年は大きなチャレンジになる」
そう、今夏の木村厩舎は“第2形態”に突入。そのチャレンジの一端が垣間見えたのが、日曜(9日)東京芝1800メートルでレーンをパートナーに初陣を迎える
ゴルコンダ(牡=父
ヴィクトワールピサ、
母ゴレラ)の1週前追い切りだ。前日夜からの降雨で南ウッドは水分をたっぷり含んだ重たい馬場。普通は4-5ハロンからしまい重点に時計をまとめる調教になるところだが、
マーメイドSに出走する
フローレスマジックを6ハロンから追走するハードな攻め。直線でもビッシリと追われ、併入に持ち込ませた。
「ヘコたれてもいいからと思って、あえて挑ませたんだけど、最後までしっかりと走り切れていた。1週前とすれば合格点だし、このひと追いでさらに上がってくると思う。半兄の
プルガステルがそうだったように、この血統は競馬を使った後の
テンションがテーマになる。そのあたりは経験が生かせる」と手応えを得ている。
一方で
グランアレグリアの全弟
ブルトガング、
ブラストワンピースの半妹
ホウオウピースフルなど、良血がスタンバイしている当開催最終週(22日)の芝1800メートルにも、木村厩舎は
クローストゥミー(牡=父
リアルインパクト、
母マチカネチコウヨレ)を出走させる。これもまた大きなチャレンジだ。
「落ち着きがあって、フットワークの質も高く、好きなタイプ。3月の時点では少し調整が遅れていたけど、5月に入って一気に上がってきた。この産駒はいいと思うよ」
ちなみに「この産駒はいいと思うよ」というフレーズは、
ロードカナロア産駒のトップバッターを飾った
ステルヴィオのデビュー前と全く一緒。
リアルインパクトはこの夏、ぜひ注目してほしい新種牡馬だ。
(荒井敏彦)
東京スポーツ