勝った負けたが入り混じり、独特の雰囲気に包まれるレース後の検量室取材は自分のレース勘を磨く絶好の場所だ。見た目の印象とレース談話が大きく異なることは少ないが、ジョッキー&調教師ともに
アドレナリンがMAXに到達していれば、普段からは想像し難いコメントを聞ける時がしばしばある。
ところが、5回東京のデビュー戦を独走Vで大物の片鱗を見せた
スカイグルーヴ(今週の
京成杯出走予定)の検量室は、まるで正反対だった。鞍上のルメールが「すごい馬。何もせずに直線はグングン加速していった。大きいところを狙える」と興奮冷めやらぬ表情の一方、木村調教師はルメールの話に首をかしげるどころか、時にうなだれる姿があった。
「ひょっとしてレース後にトラブルでもあったのか?」。翌週、カミナリ覚悟で体当たり取材すると師は首を横に振った。「デビュー戦でハナを切るのはウチの流儀じゃない」
確かに日々の稽古ではラストをしっかり動かす木村キュウ舎だけに、序盤からスッとポジションを上げていく走りには、“この血統だから”と勝手に納得したのはレース直後だけ。時計を見ればラスト2ハロン11秒2→11秒1と抜群の切れ味だった。「一頭だけ別次元の競馬でしたから」と記者がニヤけ顔をすれば、「そうだったらいいんだけどね」と返して腹の内を明かしてくれた。
「ハナを切った時はどうなるかと思ったけど、4コーナーから直線に立ち上がるフットワークが素晴らしく、1ハロンごとに伸びたのは驚き。それでもホッとした部分と、“次はどうしよう”という気持ちが先だった。言ってしまえば能力だけで走っているようなもの。課題はある」と、やはり表情は冴えず。だが、その不安は徐々に消えつつある。
この中間は即座に課題克服に着手。1週前(8日)の追い切りは4頭立ての最後方でスムーズに折り合い、3頭が抜け出していく中でも前を追いかけず、
バランスの取れた走り。実戦を経験、しかもハナを切ったとなればコントロールが難しくなりがちだが、きっちりとクリアした。
「テンから張り切り過ぎず、リズム良く走れていた。カイ食いに少し不安はあっても中間は加減せずに稽古を積めている。今後のことを考えれば“あの競馬”では厳しい。相手が強くなって、いかにパフォーマンスを上げられるか」と、賞金加算とクラシックを見据えた走りが求められる
京成杯で、今度は流儀を破る師の歓喜のコメントを聞いてみたいものである。
(荒井敏彦)
東京スポーツ