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安藤勝己騎手の怪

  • 2001年12月11日(火) 00時00分
 安藤勝己騎手の「JRA騎手免許一次試験不合格」。ごく普通の常識では考えられない結果が現実に突きつけられた。筆者は、11月30日(金)付け「広報室発表」をふーむとうなりながら読み、それから翌日スポーツ紙の反応に期待した。が、肩すかし…。案外扱いが小さかったのは、やはり発表時期を選んだ主催者の策略だろうか。G1の枠順が出ている以上、マスコミもその日の紙面でそう大きくは扱えない。時が過ぎればうやむやになる。思えば、理不尽な既成事実を作って知らぬ顔を決め込み、批判のホコ先が鈍るのを待つのは、古今東西いつもお役所の手口だった。

 ともあれ「結果は結果。これで(JRA騎手を)あきらめたわけではない」という本人のコメントはいじらしい。マスコミはおおむね「仕方ない」をタテマエとしながら、「騎手免許」の正常化、公平化を論じていた。ひとまずしかり。ただこれは本当は、一面に扱われて不思議ない「人権問題」にも及ぶ。なぜ騎手という、はかりしれないほど危険で適性が要求される職種において、中央=地方の免許制度が違うのか。つい先日、NAR(地方競馬全国協会)常務理事が、「審判、免許部門の一元化」を呼びかけ、これにJRA側が難色を示した、という報道があった。安藤問題には直接触れていないが、むろんその余波だろう。おかしな綱引きは理解に苦しむ。

 試験は「国語」「数学」「英語」「口頭試問(面接)」と聞いた。正確なことはわからない。ただ、安藤Jは40歳のオトナである。仮りにその試験が「都立高校入試レベル」としたら、「100点満点中60点」はまず無理だ。乱暴な物言いかもしれないが、オトナとはそういうものだというしかない。自分ならと考える。国語はともかく、数学、英語など、たぶん30点も怪しいだろう。いやいや国語だってそうだ。ワープロ、パソコンに慣れてしまったいま、漢字の書き取りなど問題に出れば、たぶんもう手も足も出ない。

 「落とすための試験だったんじゃないか…」。周囲はそんな声が多い。さすがにまさかとは思いたい。が、JRA、とNAR、その機構の軋轢が、安藤勝己の可能性を阻んだのは事実であり、将来的には小牧太などに代表される有望な若手の夢をも摘んでしまったことになる。安藤勝己は、さまざま不自由な立場にいながら今季JRAで42勝をあげている。なぜペリエのように、デムーロのように、さらにいえば武豊のように、自らの技術と才能を生かせないか。

 佐賀・鮫島克也騎手がWSJSで総合優勝を飾った。石崎隆之、川原正一に続き地方代表3人目。最終戦、インをこじあけるような差し切りなど、まさに鬼気迫る執念を感じさせた。くじ運もあり、他と較べハングリーな面もあるのだろう。それでもしかし、これは日本地方競馬ジョッキーの腕が、国際的にヒケをとらないことを雄弁に示している。プロスポーツマンの技術、力量とは、やはり結果でしか計れない。ファン、観戦者はもうすでにわかっている。それをあえて捻じ曲げようとしているのは、いま施行者だけなのである。

       ☆       ☆       ☆

 12月5日、統一G2「浦和記念」は、伏兵レイズスズランが勝った。好枠からイエローパワーが先手を取り超スロー。ほぼ全馬がカカリ気味な中、3コーナー手前、思い切りよく動いた江田照Jの好騎乗が光った。直線入口、3馬身ほどリード。そのまま勢いで押し切っている。レイズスズランは一昨年さきたま杯に続き浦和競馬場で統一G2勝目。軽い砂、小回り…。それにも増して、このコースとよほどフィーリングが合うのだろう。かつて東京オアシスSでファストフレンドを完封した能力があり、今春群馬記念もノボジャックに首差2着。終わってみれば今回人気の盲点だったというしかない。

浦和記念(サラ3歳以上 定量 2000m 稍重)
 (1)レイズスズラン   55江田照     2分06秒6
◎(2)トーホウエンペラー 56菅原勲     1 1/2
△(3)ムガムチュウ    55藤田      1 1/2
△(4)スマートボーイ   55伊藤直     大差
 (5)イエロードリーム  56佐藤太     1 
……………………………………………………………… 
▲(7)サプライズパワー  55石崎隆
〇(9)マキバスナイパー  55左海

 トーホウエンペラーは気性面にまだ課題があるということだろう。パドックでみせたはちきれるような馬体、返し馬の豪快なフットワークなど、まさに王者の雰囲気。それでいていざ実戦では闘志が空回りする。追われて内にもたれる悪癖。いずれにせよ今日の勝ち時計2分06秒6は、競馬自体がナマヌルすぎた。全体に速めの流れ、緊張感のあるG1でもう一度注目したい。マキバスナイパーは中団からジリ下がり。向正面で早々とステッキが入り、あろうことか殿り負けだった。左海騎手は首をかしげて無言。力走続きの反動か、あるいは気性難によるポカか。正直競馬だから…という以上に不可解な負けではある。

       ☆       ☆       ☆

 トーシンブリザードが「東京大賞典」出走にメドをつけた。12月5日、船橋での調教試験、1400m1分31秒1を持ったまま(5頭立て1着)マーク、順調な仕上がりをアピールした。当日計量535キロ。前走ジャパンダートダービーが471キロだから確かに驚く数字だが、ごく一般論からは放牧明けの馬体増は悪くないこと。脚元に不安がなく飼い葉を十分与えている証拠でもある。「半分くらいは成長分かな。あとは馬と相談して…」と佐藤賢二調教師。石崎隆之騎手とこのコンビは、馬優先主義の慎重派。出走に踏み切ってくれば、もちろんいきなり期待できる。

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日刊競馬地方版デスク、スカイパーフェクТV解説者、「ハロン」などで活躍。 恥を恐れぬ勇気、偶然を愛する心…を予想のモットーにする。

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