2002年のスタートとともに見られた社会の大きな変革の1つが、ヨーロッパのEU加盟国における、統一通貨ユーロの流通であった。これまでも、各国の商店の店先における価格表示には、従来のフランやマルクに添えてユーロ表示も付記されていたから、一般市民の間にそれほどの混乱はないようだ。既に昨年の12月、筆者がフランスのドゴール空港でレンタカーを借りた時は、フランの表示がないユーロ1本立ての請求だったから、新通貨への移行は傍から見る以上にスムーズに進んでいるようである。
競馬産業界とてそうした時代の流れを傍観しているわけにはいかず、2002年から、フランス、アイルランド、ドイツ、イタリアで開催される競走馬せり市場は、全てユーロで運営されることが決まっている。これによって、エージェンシー・フランセーズのドーヴィルセールとゴフスのオービーセールの価格比較が容易になるなど、利点は多い。各セリ会社とも当面は、旧通貨との換算表示を行っていくので、購買者側にも戸惑いはないだろう。今後、ユーロ1本の運営になった時、過去の最高価格との比較などが煩雑になってくるが、枝葉末節の問題であろう。
一方、こうしたユーロ時代に背を向けているのが、イギリスである。ブレア首相はユーロ導入積極派で、今年の年頭にもユーロ時代に乗り遅れてはならないとの所感を発表したが、差し当たって2002年1月1日の段階では,EU加盟国ではデンマーク、スウェーデンと並ぶ数少ない「ユーロの現金流通拒否」国家となった。当然のことながら、この国では今年も、せり市場は従来のギニー(ポンド)立てで運営されることになる。英国最大手のタタソールズ社では、スイッチボードの価格表示にユーロの項目を作り、昨年12月のディセンバーセールからセール終了後の結果公表にポンドとユーロの換算レートを付記するなど、時代の流れへの対応は行っている。購買者側に、ここだけギニーでの運営が継続される不便はなさそうだ。
むしろ大変なのは、タタソールズ社である。タタソールズ社はアイルランドに支社を持っていて、ここでも6月のダービーセールをはじめ年7回セールが行われるのだが、ここでのセールはユーロ立てなのだ。つまり、1つのせり会社が2つの通貨でセールを運営することになるのである。ヨーロッパ全域がユーロ景気に沸くことが期待される一方、イギリスも依然として個人消費が強く、経済が安定している限りはユーロ導入へ抵抗する勢力は弱まらないと言われている。当面は、タタソールズ社は二重通貨での運営を避けられない状況のようだ。