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週刊サラブレッド・レーシング・ポスト

  • 2002年02月06日(水) 00時00分
 3000頭近い繁殖牝馬が流産し、500頭を超える当歳馬が生後直死した、悪夢のような繁
殖牝馬生産損失シンドローム(MRLS、日本での通称「ケンタッキー・シンドローム」)の発生から9カ月。まもなく、ケンタッキーにおいて多くの種牡馬が今季の交配をスタートさせる2月15日を迎える。

 ケンタッキー大学の発表によると、昨年12月30日から今年の1月19日かけて、同大学の家畜疾病診断センターに届けられた、早産を起こした繁殖牝馬の数は77頭。96年から2000年の同じ期間の平均値が67.4頭だったそうだから、若干は多いもののまずは平均的な数字の範囲内にとどまっている。また、今季これまで既に誕生している当歳馬について、概ね良好な健康状態で生まれてきており、現在のところはMRLSの影響が残っていることを示す兆候は見つかっていない。

 まずは、平常通りに今季の種付けがスタートしそうだが、多くの関係者が大きな不安を抱えたまま繁殖シーズンを迎える理由は、今もって、MRLSを引き起こした確たる要因が特定されていないからだ。一応、『ワイルドチェリーから発生したシアン化物が、テンマク毛虫を媒介として牧草に混入し、経口摂取した牝馬に発生した』というのが最も有力な説で、近くにワイルドチェリーが繁茂する放牧地には繁殖牝馬を放すな、とか、放牧地の毛虫は出来る限り駆除せよ、といった通達が再発を防ぐ手立てとして出されたのだが、これとて確証に基づいた指導だったわけではなく、今年もう1度同じことが起きないという保証はないのが実情なのである。

 そんな中、ここへきて急浮上してきたのが、アメリカ栂(ツガ、英語名ヘムロック)という松科の高木を毒素の発生源とする説である。栂とは、建材や家具に用いられる一方で、樹皮からインクや染料の材料となるタンニンが取れることでも知られており、MRLSの発生直後にも容疑者のひとりとして名前の挙がっていた樹木だった。当時、このヘムロック犯人説を唱えたクレムソン大学の疫学研究チームが2月4日に会見を行い、その後の詳細な調査によって、「ヘムロックがMRLSの発生に関与していない可能性は、1万分の1以下である」と発表したのである。ワイルドチェリーなのか、ヘムロックなのか。

 幸いなのは、繁茂する条件が似ている両者は同じようなところに生えており、ワイルドチェリーから繁殖牝馬を遠ざけた牧場では、同時に、ヘムロックからも遠ざけることになっている点である。

 クレムソン大学では更に詳しい研究を進めるとしているが、いずれにしても、1日も早い全容の解明が待たれるところである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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