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生産地便り

  • 2002年03月06日(水) 00時00分
 道新スポーツの山根千治氏の後を受け、今回よりこの欄を担当させていただくことになった田中と申します。よろしくお願いします。
と、まあ、固いご挨拶はこれくらいにして。まずは、簡単に自己紹介を兼ねて、最近思うことをちょっと書きましょう。

 (勝手ながらここから文体を変えさせて頂きます)
 それにしても、私がこの業界に入ってもう22年になるが、ここまで不景気風が吹いたことは今までなかったと断言できる。競馬社会がほぼピラミッド形だとするのなら、その底辺から徐々に崩壊しつつあるのが現在の状況だろう。

 競馬の底辺を支えているのが、私たちの生産界と、各地で悪戦苦闘を強いられている地方競馬である。その双方が、共に成り立たなくなってきているのである。

 この国の競馬がこれから先、いったいどんな方向に進んで行くのか。
それを生産の現場から見極めて行きたいと思う。

 このところ、日高では、一向に経営状態の回復しない生産牧場に「複合経営」を勧める動きが出てきている。例えば、馬とミニトマト、馬とほうれん草、馬と花卉、といった具合だ。それを提唱しているのは、農業改良普及所や地元の農協など。そのために、わざわざ手引書まで用意して、収支を予測してくれている。

 親切なものだ、とは思うが、これがどうにも「お役所仕事」で使い物にならない。365日、休まず働いている日高の零細牧場に、もっと働いて更に収益を上げろと言っているわけである。最低でも、今の二倍くらいは労働時間が増えることになるし、気苦労も倍になる計算だ。

 一方で、その手引書を作成した人達は、週休二日、加えて祝祭日も盆暮れも休暇を取っている「お役人」である。こんなことは言いたくないが、あんたら、いったいどれくらいの労働時間なの?と皮肉の一言だって口から出てくるのだ。

 「絵に描いた餅」そのままの手引書を鵜呑みにして、それじゃあ、とばかりに今更、トマトやほうれん草など作れないな、と多くの友人知人は言う。私もそうである。やはり馬で生きてきた人間は、結局、これから先も馬でしか生きられないということである。

 それが証拠に、昨年相次いで廃止になった地方の競馬場に所属していた騎手や厩務員は、他の競馬場へ再就職の道を求めているではないか。

 馬の現場で働いている多くの人々に、せめて人並みの生活が保障されることを切に願うのみだが、残念ながら、あまり見通しは明るいものではない。炭坑や映画館などのような「斜陽産業」になりつつあるのが今の競馬なのかもしれない。それでももうすでにたくさんの「とねっこ」が2004年のデビュー目指して続々と誕生している。この馬たちが実際に競馬場で走る頃には、日本の競馬はいったいどうなっているだろうか?

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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