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生産地だより

  • 2002年03月13日(水) 00時00分
 2月下旬あたりから、日高の国道を行き交う馬運車の数が増え始めた。
 
 もう早くも種付けが始まっているのである。
 
 各地の種馬場が新種牡馬のお披露目を兼ねて展示会を開催するのがだいたい2月下旬である。その時期には、すでに人気の高い種牡馬ほど早々と「仕事」を始めている。数日前には、今年の初種付けどころか、再発情のために、二回目の種付けに行ってきたという某生産者の話を聞いた。ということは、やはり初回は2月中旬の種付けだったことになる計算だ。「は、早い…」と思わず絶句してしまった。

 早目の出産と種付けには、それなりのメリットが確かにある。今や人気種牡馬は年間200頭もの種付けをこなす時代だ。シーズンたけなわになると、電話予約で種付けを申し込むだけでも一苦労させられることになる。先約がいて希望した日時の予約が取れないケースも増えてくるのである。
 
 そういう混雑はまだ考えなくても良いので、早い時期に種付けができるのは何しろ悪いことではない。

 そして、当然の結果として、受胎が確認されれば翌年の出産もまた早くなる。早く生まれた産駒はその分だけ成長が早いので、販売する時にも有利になるというわけだ。

 例えば7月のセレクトセールなどに上場を目指すような産駒ならば、1月生まれと5月生まれでは、もう比較にならない程の体格の違いが出る。「大人」と「子供」と言っても差し支えないくらいのハンディキャップである。この差は大きい。

 また、早生まれで順調に成長すれば、当然のことながらデビューもまた早まる計算になる。徐々に遅生まれの産駒との差が縮まるとはいえ、2歳あたりまでは何かにつけ早生まれが有利なのは言うまでもない。

 ただし、あくまでこれは机上の計算である。たとえ人間が1月出産2月種付けというサイクルを堅持しようと試みても、相手は馬だ。そうそう簡単にことは運ばない。自然の発情を待つにはどうしても気候がある程度暖かくならなければならないし日照時間も必要となる。

 それを補うための工夫も、一部の牧場ではかなり進歩しているという。

 馬房内で人工的な光を照射して春と同じ状態を作り、発情を呼び起こす試みも今や珍しくはない。

 年配者は「やはり桜の花が咲く頃にならなければ良い発情が来ない」などと言っていたものだが、もうそんな悠長なことでは他に先駆けての仕事ができなくなっている時代なのかもしれない。
 
 ちなみに、私が聞いた範囲で今年の一番早い種付け日は、2月4日というもの。もし、この時の種付けで受胎しているとすれば、来年は元旦早々に誕生となる。周到な仕事をする知人Kのことだから、万が一にも今年の暮れに生まれてしまうようなことはないと思うのだが…。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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