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週刊サラブレッドレーシングポスト

  • 2002年05月15日(水) 00時00分
 イギリスでは、4月26日のG3・クラシックトライアル(サンダウン)、5月7日のG3・チェスターヴァーズ(チェスター)、9日のLRディーS(チェスター)、11日のG3・ダービートライアルS(リングフィールド)と、各地でダービーへ向けたプレップレースが行われているが、ここまで消化した上記4レースのうち3レースの勝馬に、ダービーへの登録がないという異常事態となっている。しかも、その3頭はすべて同じ厩舎の所属馬だというのだから、管理する調教師の無念と悔恨は計り知れないものがある。

 まず、4月26日に行われたクラシックトライアル。女王陛下の持ち馬で、2歳時に手綱をとっていたキアラン・ファーロンが「自分が乗った最高の2歳馬」と吹きまくっていたライトアプローチが人気だったのだが、J.ムルタが騎乗したこの日のライトアプローチは3着に完敗。勝ったのは、マーク・ジョンストン厩舎が送り込んだラムタラ産駒のシメオンだった。ラムタラから遂に男馬の大物誕生かと思われたのだが、この馬にダービーの登録が無かったのだ。

 5月7日のチェスターヴァーズで、ヘンリー・セシル厩舎の期待馬スパークリングウォーター、マイケル・スタウト厩舎のリサーチト、前走エプソムの一般戦で良い勝ち方をしたスウィングウィングといったダービー・プロスペクトを抑えて、コースレコードのおまけ付きで優勝したのも、マーク・ジョンストン厩舎のファイトユアコーナー(父ムータラム)だった。2歳時15,500ギニーの安馬が大出世と思ったら、この馬にもやっぱりダービーの登録が無かったのである。

 更に11日行われたダービートライアルS。父ナシュワンの期待馬ワーチ、ゴドルフィンがダービー出走へ意欲を見せるマムールらが人気を集めたこのレースで、1985年にスリップアンカーが作った記録を17年振りに塗りかえる、13馬身差というレース史上最大の着差で制したのが、やはりマーク・ジョンストンが管理するバンダーリ(父アルハレス)だった。凄い馬が出てきたなと思ったら、なんとこの馬にもダービーの登録が無かったのである。

 彼らがダービーに出るには、6月1日に設けられた追加登録のステージで、9万ポンド(約1,800万円)を支払うという手段が残されているのだが、ジョンストン師はいずれの馬主にも追加登録を強く薦めるつもりはないという。「フランスのダービーもあれば、アイルランドのダービーもある。シーズンが進めば、キングジョージもあるし凱旋門賞もある。私自身は英国のダービーが大好きだが、一方で、9万ポンドの追加登録料はクレイジーと言ってよいほど高額だからね。」

 競馬発祥の地における最高に権威あるレースの、しかも女王即位50年という記念の年が、主役不在となるのはいかにも寂しい。今年については、馬主さんたちの英断に期待するしかないが、英国ではこれを機にダービーの登録システムを見直そうという声も上がっている。現行のルールでは、第一回登録は2歳時の12月。ブレーキングが終わったばかりという時期にエントリーステージを設けるのはいかがなものか、という議論は、当然沸き起こってくるだろう。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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