この原稿は、ファシグティプトン・コールダーセールが始まる直前のフロリダで書いている。
日本人のバイヤーは5組で、想定される購買数は10頭弱。本当なら速報的に購買馬をお伝えできればいいのだが、ちょうど半日〜1日ズレの入稿タイミングとなってしまった。
そこで今回は、いままで書く機会が無かった話を改めて書いてみたい。そもそも、セールで馬を買う際には、どのような段取りを踏むかである。
赤本初期に、たとえば「プレビューは2ハロン好タイム馬を狙え」といったセオリーがいくつか示されたが、購買の現場の様子というのはファンには分かりづらいもの。また、購買が終わってしまうと、特定の馬を否定するような表現に繋がる内容は書きづらいものでもある。そこで、「買う直前」という今のタイミングで整理しておきたい。セールに詳しい人には退屈な内容になってしまうかもしれないが、セール初心者もいると思うのでお付き合いいただきたい。
購買者がまず触れるのはカタログだ。だいたい1か月前には送られてくる。その前からネット上には公開されるので、予習の早い人はそこから手をつける。購買者の便宜をはかるために、2歳セールの場合は仕入れリスト(ピンフックリスト=1歳セールの場所・価格リスト)などが示される場合もある。また、種牡馬&母系関連馬の資料がカタログ以外に配られたり、自分でサラブレッドタイムズやエクイラインを使って調べたりもある。
現場に着いてからはまずプレビューを見る。この際気をつけなくてはならないのが、コンサイナーによってやり方が違うことだ。とにかく売ってしまえばいいという姿勢で時計を追求してくることもあれば、売った馬が活躍すればその後に繋がると考えて丁寧な仕上げをするところもある。
馬場状態などの特状も考えなくてはならない。たとえば今年のファシグティプトン・コールダーセールだと、かなり重い馬場にしたため時計がかかっており、特に2ハロン追った馬は後半バテバテになっていた。
せっかく現場でプレビューを見るのだから、ビデオに映っている前後を確認することも重要だ。ギャロップに入る前に鞍上を手こずらせる馬もいるし、ゴール後もずっと伸びていく馬もいる。そこまで把握できるのが「現地観戦」の魅力だろう。
プレビュー後は1〜3日間の下見期間が設けられている。赤本も横見写真は掲載しているが、実際に馬を歩かせてみると、肢勢に難があったり微妙な不安材料があったりすることも多い。
その際、調教師が現場に来ているとプラス材料だ。例えばグリーンファームの場合、ここ2年小笠師と和田師が現場で馬を見ていたところ、
アースリヴィングや
アースサウンドに繋がっている。今年は小笠師のほか、他チームでは中竹師、国枝師、村山師などが来場しており、これらの厩舎に入る馬には特に注目したい。
下見をして候補を絞ったら、獣医に依頼してレントゲンやスコープなどの検査をする。ノーザンファームのように獣医帯同の場合は、公開されているレントゲン写真を自らチェックしたりもする。いまの日本人バイヤーはセール慣れしたチームが多いため、いわゆるキズモノをつかんでしまう可能性はほとんど無いといっていい。
ここまで済めばいよいよセールだ。このセール結果だが、単純に値段が高ければ高素質馬というわけではない。競る相手が居たか、強かったかにもよるし、馬主(ピンフッカーに馬を預託している人)の経済事情にもよる。今のような経済状態だと、「とにかく現金化したい」という馬主の馬を、競る相手無しで買えた場合、思わぬ安い買い物ができることもある。
そのような細かい事情を赤本に書いてしまうことはできないが、それぞれの馬の原稿を書くにあたり、プッシュしたほうがいい事情の多い馬は強くプッシュし、実はマイナス材料が多いという馬はさりげなく評価を下げるようにしている。おかげさまで私も10年以上セール通いをしているため、行っていないセールでも勘で状況を推察できるようにもなっている。赤本の原稿を読むときは、そういった「裏要素」も込みになっていると考えて読んでいただけると幸いである。
※次回の更新は、3/19(金)を予定しています。
筆者:須田鷹雄
1970年東京都生まれ、東京大学経済学部卒業。POGの達人としても知られ、監修を務める“赤本”こと「POGの達人」(光文社刊)は、POGユーザー必携の書と言われている。netkeiba.comでは「
回収率向上大作戦」も担当している。
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