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牧草収穫作業、一気に進む

  • 2002年07月03日(水) 00時00分
 ほとんど一斉に始まった今年の一番牧草の収穫作業。6月17日頃からのスタートとなったが、連日の好天に恵まれ、ほとんどの牧場が6月一杯で主要な採草地での収穫を終えた。私の牧場でも、かって記憶にないくらいの進度で作業が捗り、今年は例年になく早い切り上げとなりそうだ。

 牧草作業は、大きく分けて、次の5つに分類される。「刈り取り」「反転」「集草」「梱包」「搬入」である。

 もちろん、大昔はすべての作業が人手で行われていた。考えただけで気の遠くなるような話だ。それを現在はトラクターとその付属機械で行う。便利になったとはいえ、そのトラクターを運転するのは結局人間なのだが…。

 刈り取りは、トラクターにディスクモアーという機械を装着して行う。ディスクという名の通り、円盤に刃がついていて、それが高速回転して牧草を刈り取っていくのである。4連から8連まで、刈り取る幅の広さに応じて価格がかなり異なる。

 刈り取った後は、三日間ほど、ひたすら反転と集草を繰り返す。反転はテッダーと呼ばれる機械を使用する。集草は、ロータリーレーキ。

 当然のことながら、作業内容に応じてトラクターに装着する機械はすべて違うわけで、その脱着が結構面倒だ。私の父親(昭和一桁)などはこの脱着の度に、「ミッドウェー海戦の時の、陸用爆弾と魚雷の変換作業のことを思い出す」などと言っていたものだ。

 さて、刈り取りから三日間、しっかりと乾燥させた牧草は、いよいよ四日目に梱包作業となる。ここで登場するのが、現在はロールベーラーである。ロールが普及したおかげでこの牧草作業の能率がかなり向上した。以前は、コンパクトベーラーという名前の、牧草を小さな箱型の梱包にする機械で収穫していた。これは実質的に、人間が一つずつ手で積み込みや搬入をしなければならず、いくら重さが一個あたり10キロから12キログラムほどでも、数百個という数になるとさすがに疲労困憊したものだった。しかし、ロールは一個だいたい150キロから200キログラム。とても人間の手に負える代物ではないのですべて機械で取り扱う。格段に進歩したと言っていい。

 私の牧場の採草地は、約5ヘクタール。面積がピンと来ない方は、先ごろ終了したサッカーW杯のコートを連想して頂くと分かりやすいかも知れない。サッカーコートはだいたい0.7ヘクタール(たて105メートル、よこ68メートル)程度だから、7面分くらいの面積になる。

 そこから収穫される乾草は、一番と二番合わせて、35トンから40トンほどになるだろうか。これを一年間、馬たちに食べさせるのである。

 景気の悪化している現在では、トラクターや付属機械の費用も馬鹿にならないので、識者の間では、共同作業などを推奨する人も多い。

 確かに、どの牧場でも一通りの機械を揃えていて、似たような作業をやっていることの無駄は感じない訳ではないのだが、しかし、これは例えば普通の勤労者家庭に置き換えると、隣人と乗用車を「共有」するようなもので、使いたい時期が重なるのと、それぞれの使い方に落差があるために、トラブルが絶えないという現実がある。簡単な話ではないのだ。

 未だに日高では大多数が家族経営の小規模な牧場である。競走馬生産の特殊性は、例えば、牧草作業の方法一つにしても、微妙なこだわりを持つ人が少なくないので、いつまで経っても「共同作業化」が進まないのである。これは、職人気質というべきか、単なるわがままというべきなのか……。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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