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二つの当歳市場

  • 2002年07月10日(水) 00時00分
 7月に入ると同時に相次いで今年生まれた当歳馬の市場が二個所で開催された。日高軽種馬農協主催の「7月市場・サラブレッド当歳」(静内・北海道市場、7月1日)と、その一週間後に苫小牧市・ノーザンホースパークで開催された「セレクトセール2002」である。

 この原稿を書いている段階では、後者のセレクトセール2002の結果がまだ出ていないため、両者の売却成績を数字の上で比較することはできないのだが、少なくとも昨年までは、社台グループの上場馬が約半数を占めるセレクトセールの「圧勝」が続いていた。

 今年もまた、先に開催された7月1日の「7月市場・サラブレッド当歳」の方は、上場が60頭、売却が12頭、売却率でちょうど20%という結果がすでに出ている。この数字をどう解釈するべきかは様々に意見が分かれるところだが、とにかく結果としては惨澹たるものだったということだ。

 上場馬の質がそんなに劣っていたのだろうか。確かにサンデーサイレンス産駒こそいなかったとはいえ、スペシャルウィーク、ダンスインザダーク、ブライアンズタイム、サクラバクシンオー、タイキシャトルなどの名前が散見するそれなりの水準だったはずだ。

 しかし、一週間後にセレクトセールを控えた日程の組み方に問題があったのか、とにかく売れない。馬産地・日高の低迷ぶりを象徴するような結果だったと思う。

 一方のセレクトセールは、昨年までは、事実上の日本一のサラブレッド市場として、質、量、価格ともに断然の実績を残してきた。それにともない、日高の生産者も高額で販売したい生産馬は、地元の市場を素通りしてセレクトセールに上場する傾向が顕著になってきた。より多くの購買者がつめかける市場に上場させた方が、販売のチャンスも増えるという計算である。

 かくして、セレクトセールには、ますます上質のサラブレッドが集結することになり、市場の理想的な形が実現しているわけである。

 「せり」の本来の意味は、「競り合う」ところにある。一声で落札されるうちは、せりの醍醐味がない。やはり、希望最低価格からスタートした上場馬が何人かの購買者によって激しくせり上がるところに、その面白さがある。残念だが、日高で行われる市場とはまったく赴きを異にする「白熱した市場」が、セレクトセールである。久しく活気のある市場を経験していない日高の生産者にとって、セレクトセールの盛り上がりは、ちょっとした「カルチャーショック」であった。

 今年は、さていったいどんな結果になるだろう。注目のサンデーサイレンス産駒も名簿上では30頭に達する。その他にも、良血馬が目白押しだ。結局、市場をより活性化しようと思えば、できるだけ良い馬をたくさん揃えて上場させるのが何より有効である、といういわば当り前の原則を改めて見せつけられたのがこのセレクトセールかも知れない。

 誤解を恐れずに書くが、その意味で日高の生産者には、やはり反省を求められよう。「良い馬は庭先でさっさと売り、残った馬を市場に出す」ことを長いこと繰り返してきたわけだから。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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