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今から胸が高鳴る成長力

  • 2010年08月27日(金) 11時00分
 札幌記念が行われた第1回札幌開催の2週目に、注目の2歳馬が相次いでデビューした。

 土曜日のメイクデビュー札幌(芝1500m)において、圧倒的な一番人気(単勝1.4倍)で出走したのがアドマイヤセプター(牝2、橋田厩舎)。自分としては「アドマイヤグルーヴの08」と呼んだ方がしっくりくるのだが、2歳馬の取材をしていた春先は柔らかさが目を引く馬で、それだけにデビュー時期は馬体がしっかりしてくる秋口となるのではと思っていた。

 ところが、久しぶりにパドックで見たアドマイヤグルーヴの08、いや、アドマイヤセプターは柔らかさだけでなく、芯の強さも感じさせるようになっていた。クラシックを取るような馬は成長力が著しいと聞いたことがあるが、まさにアドマイヤセプターはそれを地でいくような成長力を見せていたのだ。

 7馬身を付けたレースぶり、そして1分29秒3というタイレコードを記録した時計面は、もはや語るまでもないだろう。むしろアドマイヤセプターが評価される点は、勝負所に向かう第3コーナーでの動きにあった。

 前を行くトウケイローズを交わしに行くために、アドマイヤセプターは内から外に進路を取るのだが、その時、コーナーを曲がっているのにも関わらず、まるで遠心力を無視したかのように加速を続けているのだ。これは体の柔らかさが与えた天性の才能であり、過去の札幌芝1500mで行われた2歳戦でも、こんな動きを見せた2歳馬は見たことが無かった。

 この後は10月2日に行われるGIII・札幌2歳Sを目指すとのことだが、母アドマイヤグルーヴや祖母エアグルーヴ、そして祖祖母ダイナカールに共通した長所はお分かりだろうか。それは類い希な成長力。春先からメイクデビューの時点でも、これだけ変わり身を見せたアドマイヤセプターが、約1か月後にどれほど美しく、そして強い牝馬となっているのか。その姿を考えただけで今から胸が高鳴る。

 一方、日曜日のメイクデビュー札幌(芝1800m)に出走したプレイ(牡2、斎藤誠厩舎)は、一時、単勝1.1倍という圧倒的な支持を集めたものの(最終的には1.5倍)、直線で伸びきれずに2着に敗れている。

 アドマイヤムーンの半弟で、父は世界的名馬ロックオブジブラルタル。09年のセレクトセールの1歳市場で1億4500万円の評価を受けたプレイは、その後ビッグレッドファームにおいて、まさに英才教育をされてきた。牧場での調教では古馬並みの時計を計時し、馬体、そして堂々とした風格は、これが2歳馬かと唸らされた記憶がある。

 この日の馬体重は492kg。その雄大な馬体でパドックを悠々と歩いていた姿からも、大物ぶりを発揮していたプレイであるが、その分、いかにも2歳馬らしいレースを見せた勝ち馬にしてやられたという感じだろうか。

 それでも、レース後に話を聞いたビッグレッドファームのスタッフからは、「牧場ではメイクデビューを勝ち上がっている2歳馬たちが、付いて来れないほどの手応えで坂路を駆け上がってきた馬ですし、まだ先もある馬。必ずこの経験を糧としてくれると思います」との前向きな言葉が聞かれていた。

 コスモビューファームの社長である岡田繁幸氏は、セリの後で、「将来は種牡馬になれる馬」と話していたが、メイクデビューで敗れたことは、決して種牡馬になる馬としてはマイナス材料にはならない。むしろ、これからスーパーホースとして種牡馬の道を突き進んでいくプレイを、共に追いかけていけることは、ファンにとっても幸せといえるのではないだろうか。次走、プレイは必ず輝かしい第一歩を我々の前に示してくれるはずだ。

筆者:村本浩平
 1972年北海道生まれ。大学在籍時代に「Number ノンフィクション新人賞」を受賞。現在はフリーライターとして活躍。特に馬産地ネタでは欠かせない存在。

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