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売れるアラブ市場?

  • 2002年09月04日(水) 00時00分
 9月市場はアラブとサラブレッドの市場が一緒に行われる。前半の二日間(8/31と9/1)がアングロアラブの1歳市場である。

 低調ムードに終始したサラブレッド市場と比較すると、こちらはとりあえず「売れる」市場だ。

 二日間に上場されたアラブ1歳馬は合計241頭。そのうち149頭が売却され、売却率も62%に達した。周知のように、今やアラブ系のレースを実施している競馬場はほとんどが西日本に集中し、一昔前と比べると、在厩馬も激減している。当然アラブの生産頭数もそれに伴い減少の一途を辿り、ついに今年日高で生まれたアラブ種は239頭にまで落ち込んだ。因みに10年前の平成4年には1840頭を生産していたのだから、凄まじい勢いで数が減りつつあるわけだ。とりわけ、ここ5年間くらいの減り方が特に著しい。平成10年には1377頭、平成12年には612頭という具合に、たった2年で半分以下にまで落ち込んできている。

 なぜこうなったのか、を説明するのはなかなか難しい。生産者側は「アラブ競走が競馬場からだんだんなくなってきているので、先行きの不透明感から生産しても販売できないことが予想されるため」と苦い顔をする。一方の主催者は、「アラブ競馬を続けるための必要頭数が揃わなくなってきているので、縮小もしくは廃止せざるを得ない」と主張する。

 今回、意識的に何人ものアラブ生産者に話を聞いたが、いずれも今となっては「レースが減ったので生産頭数が減ったのか、あるいは生産頭数が減ったのでレースを減らすより方法がなくなったのか、はっきり分からない」とのコメントだった。

 いずれにしても、例えば南関東の地方競馬などは、徐々にアラブ系の在厩馬が減少し続け、だんだんとレースを組むこと自体が困難になってきた結果、廃止に踏み切ったという歴史がある。限られたメンバーだけで競うレースは、結局ファンの興味を殺ぐものだから、やはりつまらなくなるし馬券も売れないのだ。

 かくして、中央競馬のアラブ廃止に端を発した「アラブ離れ」は、その後前述の南関東や岩手、そしてついに来年より兵庫県(園田・姫路)にまで及ぼうとしている。すなわち兵庫県では来年度の2歳戦から徐々にアラブ競走を廃止する方向を打ち出し、今年から市場での1歳馬購入を中止した。

 残るのは、広島(福山)、熊本(荒尾)、高知など、一握りの競馬場だけが細々とアラブ競馬の灯を守って行くことになるのだが、それも生産されるアラブがいてこそである。ここまで頭数が落ち込むと、今度は各競馬場が必要頭数を確保すること自体が困難なものになってしまうだろう。

 ところで、なかなか盛況に見えるアラブ市場を支えているのは団体購買といわれる補助金頼みの制度である。各馬主会によって購入予算が異なるので金額は一律ではないが、例えば広島県などは、ほぼ牡馬で300万円、牝馬で200万円という価格帯の馬が大半を占める。アラブのレースだけを実施している競馬場なので今回の市場でもダントツのトップバイヤーとなり、売却率を支える原動力となった。だが、水面下ではこの団体購買に関する「きな臭い噂」が絶えない。ある生産者は「今回のアラブ市場で売却されたうちの半数以上は庭先ですでに下売りされていた馬だ。それを市場で取引することで補助金の交付を受けようというわけ。どうかすると馬代金がチャラになったりするからこの制度は悪用されていると思う」と語る。何やら「牛肉偽装事件」を連想させるような話である。そして、売れる市場であるにもかかわらず激減し続ける生産頭数が、何かを象徴しているように思われる。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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