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二週連続Gレース制覇

  • 2002年09月11日(水) 00時00分
 私の住む浦河町絵笛は戸数約60戸。牧場はそのうち30軒程度の小さな集落である。それぞれの規模も基本的には中小牧場がほとんどだ。

 にもかかわらず、このところ生産馬の大活躍が目立つ。先月18日札幌記念を勝ったテイエムオーシャンを皮切りに、今月に入ってからは1日小倉の「小倉2歳ステークス」をメイプルロードが制し、8日新潟の「京王杯オータムハンデ」では、前走2着に惜敗したブレイクタイムがついに初重賞勝ちを収めた。

 メイプルロードは父ジェニュインの牝馬。生産は成隆牧場。馬主はターファイトクラブ。因みに成隆牧場はテイエムオーシャンの生産牧場である川越ファームの隣に位置する。また、ブレイクタイムは以前触れたように私の牧場の隣にある谷口牧場の生産馬である。
 実は8日には、阪神競馬場のメインレース「セントウルステークス」でそこそこの人気になったテンシノキセキもまたこの地区の生産馬(駿河牧場)だった。このところ、この地区の牧場の産駒は、実によく活躍する。二週続けての重賞制覇というのも、ちょっと私には記憶がない。

 この欄で度々触れているように、重賞競走を制覇した牧場には多くの同業者や友人知人から祝い酒が届けられる。それだけでなく、他にいくつものメリットがある。まず何と言っても、中央競馬の場合には、「生産牧場賞」(旧・生産者賞)が大きい。例えば、小倉2歳ステークスや京王杯オータムハンデなどのG3の場合には、混合レースで一般生産牧場賞が205万円、繁殖牝馬所有者賞も同じく205万円が交付される。これがまず第一のメリットである。

 続いて、考えられるのは、その馬に母や妹弟などがいると、ブラックタイプの血統表に太字が加わるために販売しやすくなる点が上げられる。この世界、血統が重んじられることは周知の通り。もし、産駒に複数の重賞勝ち馬でも出現すれば、その母馬はいきなり「名牝」の仲間入りを果たすと言っても過言ではない。

 産駒が活躍すると、当然のことながら、その馬の馬主や調教師などと良好な関係が保てる。また、これに気を良くした馬主に違う馬を1頭購入してもらえるかも知れない。いわば「ビジネスチャンス」が広がることが期待できるのだ。あるいは、その馬主から、新たに自身が所有する繁殖牝馬を預託してもらえないだろうか、などという依頼が舞い込む展開も考えられる。馬主もまた、「私はOOを生産したOO牧場に繁殖を預けていてね…・」というのが一種のステータスになったりもするからだ。

 かくして、まさに「いいことづくめ」の状態になるわけで、生産者はしばらく高揚した気分で日々の労働ができるようになる。生産界を取り巻く状況が現在はとても厳しく、実はこの精神面への好影響がもっとも貴重なものかもしれない。

 競走馬の生産という仕事は、どちらかというと喜びよりもむしろ落胆することの方が多いものだ。それがこういう形で「富」と「名誉」が一度にもたらされると、しばらくの間またモチベーションを維持することができるのである。

「馬さえ走ってくれたらみんな幸せになる」と生産者は例外なくそう思っているが、これは至言だ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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