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週刊サラブレッド・レーシング・ポスト

  • 2002年09月24日(火) 13時00分
 9月18日、香港ジョッキークラブと日本中央競馬会から、"Good Neighbour Policy on Wagering" を締結することで2つの競馬主催団体が合意したと発表があった。

 "Good Neighbour Policy on Wagering" 。直訳すれば、『馬券発売を巡る良好な隣国関係を築くための方策』とでもなろうか。JRAのホームページではこれを『善隣政策』という言葉に置き替えている。

 世の中は、インターネットの時代である。netkeibaのサイトでこれを御覧下さっている皆様には御説明するまでもないことかもしれないが、英国のブックメーカーやラスベガスのカジノが独自のサイトを持っていて、日本からでも簡単にアクセスが可能である。殊に、ブックメーカーたちがジブラルタルのタックスヘイヴンに本拠地を移すようになったここ1〜2年は、国外からこうしたサイトを通じてギャンブルを楽しむ顧客が急増。その一方で、ネットギャンプルを巡るルールの整備は遅れており、ここまま放置すると様々な問題が深刻化する恐れがあると言われていた。

 国際的に見て、ネットギャンブルの普及に最も敏感な反応を示していたのが、香港だった。ここ2〜3年、香港における馬券売り上げも決して好調ではなく、主催者ではその要因の1つに、本来ならば香港ジョッキークラブを通じて国内の競馬に投資されるはずのお金が、インターネットを通じて国外のギャンブルに廻ってしまっていることを挙げていた。ギャンブル好きの土地柄でITが普及した場合、規制がなければこういう事態になるのは自明の理で、つまりは、日本にとっても真剣に取り組まなくてはならない命題であることは間違いないのである。

 今後は、主催者の許可なく国外の競馬を対象に馬券を発売したり、相手国の許可なく国内の競馬の馬券を国外で発売する行為を取り締まれるよう、2つの主催団体が一致協力して世界に働きかけていくことを目的とした今回の『善隣政策』締結は、日本が世界の競馬サークルの中でイニシャティヴをとろうとしている面で、非常に高く評価出来ることだと思う。2カ国の呼びかけに呼応して、ネットギャンブルを巡る世界的なルール作りが実現すれば、大きな成果となるはずだ。

 ただし、ルール作りの基本方針として、『規制』や『排除』だけでは世界のコンセンサスを得ることは難しかろうと思う。

 つまり、主催者としての香港ジョッキークラブや日本中央競馬会は、他国の主催者が相手国の競馬を対象とした馬券を自国で発売することを、出来うる限り許可する方向でルール整備を進めて行かないと、馬券売り上げの9割以上をブックメーカーが占める英国などは、足並みを揃えることは出来ないと思われるのである。

 例えば、日本馬が大挙出走する香港国際競走の馬券を、現在日本のファンが買うことは出来ない。売れば大きな売り上げがあることは明らかなのに、現行のルールでは売ることが出来ないし、ましてや、善隣政策が規制と排除の方向にだけ向かうのであれば、未来永劫、日本のファンが香港国際競走の馬券を買うことは不可能になる。

 ルールを作るとすればここは、香港ジョッキークラブは日本中央競馬会が日本で香港国際競走の馬券を売る事を認める。ただし、売り上げの何%かは香港ジョッキークラブに還元する、という方向に舵を切り、また、それぞれの国内における環境整備に取り組んでいだきたいのである。

 今すぐ実現する方向性ではないかもしれない。しかし、そういう方向性も見据えた上での善隣政策であって欲しいと思う。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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