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10月市場近づく

  • 2002年09月30日(月) 23時17分
 相変わらずの不景気で生産地も青息吐息である。10月7日(月)より始まる「10月市場」の名簿が届いたものの、上場予定頭数がついに1000頭を超えた。昨年より100頭も増加していることになる。それだけ売れ残りがまだいるということだ。まさに末期的状況と言わざるを得ない。

 売れ残り馬の増加は、結局のところ馬主の購買意欲が減退していることに尽きる。とりわけ、地方競馬にその傾向が顕著だという。

 親しくしている岩手のとある調教師も「今年、本賞金が減額されたので馬主経済が悪化している」と苦い顔をする。一方の厩舎に支払う預託料は変らないので、賞金が減った分だけそっくり馬主の負担が増えることになる。「岩手の場合、今年から賞金が約20%減額になったから、これは大きいよ」というのだが、他の地方競馬はおそらくもっと報償費が減額されてきているところが多いはずで、なるほどそれならば昨今の馬産地が景気の悪いのも宜なるかな…と妙なところで納得してしまった。

 いまさら私が説明するまでもないことだが、賞金や出走手当などの報償費は馬券の売り上げによって支えられている。その馬券売り上げが下降線を描いてくると、必然的に開催経費も減額され、報償費も減らされることになる。ところが、厩舎へ支払う預託料はもちろんのこと、所有馬の代金も本来からすればこの報償費が「財源」となることが望ましい。維持費は賄えても馬代金が出なければ、結局「馬主経済」はいずれ破綻することが明らかだからである。

 とはいうものの、いくらそれが理想的だとは言っても、現実とはかなりのギャップが生じてしまっている。その岩手の調教師はこうも言う。「例えば馬主さんになるべく経済的な負担をかけずに早い時期に馬代金を回収しようと思えば、まず認定レースを勝つことに加えて、2戦目も特別レースに勝つくらいの能力がなければ、なかなか黒字にはならない。しかしそんな馬はオープンクラスの一握りであって、現実には認定レースだって勝ち上がるのは容易なことではない」と。

 この場合、彼が想定している価格帯は、せいぜいが300万円から400万円ほどの馬である。ところが生産地では、そのくらいの価格の馬でも極端に売りにくくなっている。

 先日、知人の馬が庭先で売れた。その馬は7月市場に800万円の価格で上場されたのだったが、結局は9月になり350万円で手離すことになったのだという。時期がずれてくると相次ぐダンピングで、以前付けた価格の半分以下にまで「値引き販売」せざるを得なくなる。とすると、当初から300万円や400万円程度の希望価格で販売することを目論んでいた馬たちは、もう絶対そんな価格ではさばけなくなってしまっているわけである。

 10年前には、中央はもちろんのこと、比較的条件の良い地方競馬でも、厩舎が空いていなかった。馬を買いたい馬主はいても、厩舎の馬房を探すのが一苦労であった。それがたった10年間で、今度は厩舎はあっても馬主に馬を買ってもらえないという時代になってしまった。

 最近はかってのバブル景気に沸いた時代とそれ以後(つまり1990年代)を「空白の10年間」と称するのだそうだが、その後遺症は間違いなく馬産地にも及んでいる。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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