日経賞を完勝した良血馬トゥザグローリーが、天皇賞・春に出走。池江泰寿調教師にとっては、父であり、先日引退した名伯楽・池江泰郎元調教師から託された大事な馬であると同時に、自身が調教助手時代に携わった名牝・トゥザヴィクトリーの愛息でもあります。決意新たに挑む池江泰寿調教師を独占取材です!
◆プレッシャーの中での調整
東 :春の天皇賞に出走するトゥザグローリーですが、前走、転厩初戦の日経賞(11/4/2、阪神芝2400m)を見事に完勝。この勝利には、様々な思いがあったのではないですか?
池江 :そうですね。この馬のことはデビュー戦から見ていまして、「どんどん強くなっているな」という感覚を持っていたんです。特に、去年の秋以降がすごく充実していて。
東 :デビューが昨年の3月で遅かったですが、ダービー出走も果たして、暮れの中日新聞杯(10/12/11、小倉芝2000m)で重賞初勝利を挙げました。
池江 :そう。で、そこから中1週で有馬記念(10/12/26、中山芝2500m、3着)。それも、世界一になったヴィクトワールピサにタイム差なしぐらいですよね。そのローテーションで急激に成長していきました。
それで、年明けの京都記念(11/2/13、京都芝2200m、1着)で見せた強さが、また衝撃的だったんです。そういう馬を引き継ぐと、勝って当たり前なんですよね。ある意味、GIの1番人気よりもプレッシャーを感じていました。
東 :引き継ぐことは、いつ頃決まったんですか?
池江 :その中日新聞杯を勝った時です。祝勝会の席で、キャロットクラブの社長から「3月以降、この馬をよろしくお願いします」と言っていただきました。その時はまだ「小倉の重賞を1つ勝った馬」という印象だったんですが、その後どんどん成績を上げていくので、「これは大変なことになったな」って。
東 :責任重大ですよね。それで、3/1に厩舎に来て、そこからはどんなところにポイント置いてされてきたんですか?
池江 :まだ完成度が高くないので、あまり負荷を掛け過ぎないようにと。でも、大型馬なので、あまりソフトな調教では切れる脚が使えなくなりますし、脚元にも負担がかかります。その辺のバランスを取るのがすごく難しかったですね。
東 :しかも、この先の成長もありますし。
池江 :ええ。トゥザグローリーは、今年の秋か来年くらいに完成を迎えると思うんです。その成長を阻害しないように、今の成長に応じた中でしっかり負荷もかけていこうという。
東 :また、厩舎が変われば、調教の仕方も変わってきますよね。池江泰郎厩舎ではポリトラックがメインで、今は坂路とCWを主体にされています。
池江 :やっぱり技術や感覚もあるので、そっくりそのままは難しいわけですよね。だから「うちの厩舎のやり方で上手く仕上がっていくのかな」という不安もありました。これで負けたら、僕のやり方がダメだったということになりますしね。
東 :調教で、手応えは感じましたか?
池江 :そうですね。走り方がお母さんそっくりで、追ってから頭が高いんです。ドスン、ドスン、ドスンという感じの走りに見えるんですけど、数字を見ると切れているんですよね。
東 :動きが大きいんですか?
池江 :そうなんでしょうね。体の1つ1つのパーツも大きいですし、一完歩が他の馬と違うんでしょうね。「うわ、遅いな」と思ってタイムを見ると、すごい速い時計が出ています。6ハロンで3秒以上速い感覚ですね。(福永)祐一君も、軽く乗ってきたのにすごい時計でびっくりしていました。
東 :福永騎手がトゥザグローリーに乗るのは、日経賞が2度目でしたよね。
池江 :調教の段階から呼吸がぴったり合っていましたし、競馬でも、1コーナーに入って行く時に「祐一、これ完璧じゃないの」って思いました。位置取りから折り合いから完璧だな、と。だから安心して見ていましたね。(※天皇賞・春は四位洋文騎手が騎乗予定)
東 :転厩初戦のプレッシャーもあった中、うれしいプラスホッとした勝利でしたか?
池江 :ホッとしたのが90%以上でした。でも、担当している子が一番プレッシャーを感じていたと思います。塩津という持ち乗り助手なんですけど、うちの厩舎に来て、まだキャリア1年ないくらいなんです。
東 :若い方なんですか?
池江 :若いです。彼のことは牧場時代から見ていて、彼だったら必ず良い仕事をすると思っていました。なので、トゥザグローリーがうちの厩舎に来ることが決まった時に「この馬は塩津に任せよう」と決めていたんです。彼は、「僕がやらせてもらっていいんだろうか」と言っていましたけどね。
東 :まだ厩舎に入ったばかりというのもありますし、池江泰郎厩舎の時は、市川明彦厩務員と池江敏行助手という強力な「チームディープ」が手掛けていましたし。
池江 :そう。それを、キャリア1年未満で、1人でやらなきゃいけないわけですからね。トゥザグローリーって、体の大きさの割に繊細なところがあるんです。前の厩舎ではずっとメンコをしていて、うちの厩舎に来ても、しばらくはつけていたんです。でも、顔がすごくいいので、僕は取りたいなと思っていて。
東 :はい。
池江 :それで、塩津に「明日からメンコを外して乗ってくれないか」って言ったんです。それでやってみたら馬が驚いて、塩津を振り落としてしまって…。「これはダメだな」と思ったんですが、彼は「いや、これで行きます」って。それから優しく教え込んで、短期間で物音に動じないようにしてくれたんです。
東 :先生の見込んだ通りの仕事ぶりなんですね。
池江 :僕の思っている通りに、トゥザグローリーを育ててくれています。でもやっぱり、プレッシャーはものすごく感じていたんでしょうね。日経賞を勝った時、目が真っ赤になっていて。それを見て「ああ、良かったな」と思いました。