トゥザグローリーのお母さんトゥザヴィクトリーは、現役時代、池江泰郎厩舎に所属し、01年のエリザベス女王杯を勝利、ドバイワールドCでも2着になるなど活躍しました。当時、調教助手として携わり、ドバイ遠征にも行った池江泰寿調教師。その馬の息子であるトゥザグローリーに、世界一の夢を抱いています。
◆「To The Victory」
東 :トゥザグローリーのお母さんトゥザヴィクトリーは、現役時代とても活躍した馬ですよね。先生は、助手時代にトゥザヴィクトリーにも携わっていらしたんですよね?
池江 :そうです。ドバイにも2回連れて行ってもらいましたし、いろんな経験させてもらった馬でしたね。すごく難しい馬で、引っかかって。それを何とかなだめて乗って。トゥザヴィクトリー、ほら、ここに(笑)。
東 :あっ、先生のベルトに「To The Victory」のプレートが付いてます!!
池江 :アメリカの馬具屋で作ってもらったんです。みんな自分の名前を入れるそうなんですが、牧場のスタッフに馬の名前入れている人がいて。「これは僕が大好きだった馬の名前なんだ」って教えてくれて、「それはいいな!」って思ったんです。
東 :それで先生はトゥザヴィクトリーの名前を入れたんですね。
池江 :そうなんです。トゥザヴィクトリー、一番好きな馬なので。
東 :そうなんですか。
池江 :はい。大好きな馬なんですよね。トゥザグローリーはその馬の息子なのでね。だから、キャロットクラブの社長から預けていただけると聞いた時は、本当にうれしかったですよ。本当にうれしくて、うれしくて。
東 :トゥザヴィクトリーのどういうところに魅力を感じられていたんですか?
池江 :魅力はもう、ゾクゾクッとするくらいの美しさですよね。初めて見た時に、こちらが引いてしまうくらいの美しさを持った馬です。で、気が強くて。近寄りがたい女性という感じです。
東 :女王様みたいな感じですか?
池江 :女王様系ですね(笑)。馬名も、「トゥザヴィクトリー」って実は第二希望だったんですよ。第一希望は「コールミークイーン」。「私を女王様とお呼び」というね。何かの理由で使えなくて、それで「トゥザヴィクトリー」になったんですけどね。
東 :でも、「トゥザヴィクトリー」も、名前自体がタイトルになっているようなかっこよさがありますよね。
池江 :そうなんですよね。僕は、ベルトの他にも、セリのカタログケースとか双眼鏡とか、いろんな持ち物に「To The Victory」と入れているんです。それは馬の名前と「勝利に向かって」というダブルミーニングでそうしているんです。
東 :馬の名前ですけど、1つの言葉として良い言葉ですよね。トゥザグローリーの「栄光に向かって」もかっこいいんですけれども、次走は春の天皇賞。現在はどういう状態ですか?
池江 :レース後の疲れもないですし、日経賞が1週間遅れたことで、天皇賞との間隔が狭まりました。その分、追い切りが1本少なくて済むので、やりやすいなという感じがありますね。
東 :競馬で自在性もあるので、展開にも左右されにくいのかなという印象もありますが。
池江 :そうですね。そこは前の厩舎で、しっかりコントロールが効くように教え込まれていますよね。去年の秋口頃までは、折り合いを欠くシーンが何度か見られたんです。お母さんの血が目覚め出しているのかなと思ったんですけど、それをチームディープがしっかり矯正して、うちの厩舎にバトンを回してくれました。
東 :積み重ねがあっての今なんですね。
池江 :そうです。僕らはまだ1か月半くらいしかやっていませんからね。今回の課題は、やっぱり距離ですね。前走からプラス800m。
東 :先ほど「トゥザグローリーに関しては、ステイヤーとも芝の中距離馬とも決めつけていない。ダートが一番走る」ということで…すごく衝撃的だったのですが。
池江 :ダートと、あとはオールウェザーですね。これはむちゃくちゃ走ると思いますよ。そういう馬格と走り方をしています。
東 :ということは、将来的に海外も視野に入れていらっしゃるんですか?
池江 :お母さんもドバイで走っていますから、それも目標の1つですし、あと、ヨーロッパの深い馬場も合うと思いますので、そういうところでも走らせてみたいなという気持ちもあります。
東 :ダートも走れるということで、アメリカにも行けますよね。どこにでも行けますね。
池江 :その通りです。今まで凱旋門賞と、ブリーダーズCクラシックの両方を勝った馬っていないんです。それって、究極のサラブレッドじゃないですか。ヨーロッパとアメリカの最高峰のレースを両方、しかも同じ年に勝っちゃうとしたら。
東 :同じ年にですか!? それはすごいことですね。
池江 :ええ。…妄想はその辺りにしましょう。話が大きくなりすぎました(笑)。でも、このまま順調に成長し続けてくれたら、それを本当に叶えてくれるんじゃないかなと、こちらに抱かせるような馬ですよ。
東 :いろんな可能性を秘めているんですね。では、まずはドバイですか?
池江 :まずは天皇賞です(笑)。
東 :先走ってしまいました(笑)。
池江 :なぜそういう馬を春の天皇賞に挑戦させるんだというのは、これは1つの僕らの試練です。今は、いわゆるダービーを頂点とする配合で生まれてきた馬が多いんです。そういう馬を、調教で長距離もこなせるように作っていく。そこで僕らの技術を試されるというね。だからやっぱり、春の天皇賞にしても菊花賞にしても、勝ち馬は一流の厩舎からですよね。
東 :それだけ難しいということですか。
池江 :難しいです。そういう意味で僕は、挑戦していく意義があるんじゃないかなと思っているんです。