昨年、待望のGI制覇を果たし、今年4月には史上最速で通算200勝を達成した矢作芳人調教師。開成高校出身でも有名な切れ者調教師が、NHKマイルに精鋭3頭を送り込みます。無敗のヘニーハウンド、2歳チャンプ・グランプリボス、虎視眈眈とキョウエイバサラ…それぞれの手応えはいかに。
◆好センスのヘニーハウンド
東 :4月10日に厩舎通算200勝を達成。おめでとうございます。
矢作 :ありがとうございます。
東 :開業から6年1か月10日と、史上最速で達成されたということですが、すごいスピードですね。
矢作 :そうですね。平均30勝で行っても間に合わないわけですし、12馬房でスタートしてのこの年数ですからね。非常に誇らしかったですし、本当、スタッフと共に喜んだという感じです。
東 :スタッフさんも一丸となってつかんだ記録なんですね。
矢作 :「最速で行きたい」というのは、俺以上にスタッフみんなが思っていましたからね。スタッフには、もう、感謝ですよ。感謝しかないですね。
東 :1つの記録として、「200勝」という数字は、先生の中でいかがですか?
矢作 :まあ、よく勝ってきたよな、って。正直、開業した時は社台グループの馬は一頭もいなかったですし、開業するにしては不利な条件もそろっていたんですよね。その中でよくやって来られたなという達成感はあります。もちろん、まだまだですけどね。
東 :スタッフの皆さんも熱い方が多いですし、1つ目標を達成されたら「また次!」という気持ちになっていそうですよね。
今年も、GIで楽しみな馬がたくさん揃っていますが、NHKマイルは3頭が出走ですね。
まずは、ファルコンSを勝った外国産馬のヘニーハウンド。先生は海外のセリによく行かれていますが、これは先生が海外で買われたんですか?
矢作 :いえ、これは輸入されてから馬を見て、やらせてもらえるようになったんです。初めて見た時、「品のある、きれいな馬だな」って思いましたね。
東 :品がある。
矢作 :ええ。アメリカの血統で、アメリカのトレーニングセール出身ということで、もっとコロンとしたスピードタイプかなと思ったんですけれども、そうじゃなくて、馬体にすごい伸びがあるなというふうに感じました。
東 :そうなんですね。オーナーの林正道さんは新しい馬主さんですが、ヘニーハウンドの他にもノーザンリバー(アーリントンC優勝)などを持っていらっしゃるんですよね。どんな方なんですか?
矢作 :いや、もうね、ヘニーハウンドとノーザンリバーの世代から持ち始めた方なんですけど、世の中にはこれだけ持ってる人っているんだなという。今で言う、“持ってる”んです。
東 :持ってる?
矢作 :持ってる。何もかも持ってる。この世代の成績を調べたら分かりますけど、すごい成績ですよ。ヘニーハウンドが新馬戦を勝った時点で、新馬戦5戦3勝、2着1回、3着1回。
東 :すごいですね。それはご自分で馬をご覧になって?
矢作 :ええ。去年のセレクトセールの下見で何度もお会いしたんですけど、非常に熱心に馬を見られていましたね。今まで馬は一切されていなかったそうなんですけどね。
東 :それは持っていますね。
矢作 :持ってるでしょ。それに、人情にも厚い方です。この前のファルコンS、ヘニーハウンドは人気がなかったですけど、それでもご祝儀袋を用意されていたんですよ。最近の新しい馬主さんにしては珍しいですよね。
東 :そうなんですね。
矢作 :牧場に行っても、社長や場長じゃなくて、若い子を引き連れてカラオケに行ったり、焼き肉に行ったりしているんです。すごくいい方です。すばらしい馬主さんにめぐり会えたなと思っています。
東 :そのオーナーが持っていらっしゃるヘニーハウンドですが、現在2戦2勝で、しかも、新馬戦を勝ってすぐに重賞を勝ってしまうという、こちらもすごい成績です。まずは新馬戦(10/11/27、東京芝1400m)から振り返っていただきたいのですが、3馬身差を付けての勝利。いかがでしたか?
矢作 :メンバー的にはちょっと軽かったので、いけるかなとは思っていたんですけど。それにしても、競馬センスのある馬だなと思いましたね。
東 :スタートもすごく良かったですよね。
矢作 :そうですね。ハナに行くつもりはなかったんですけど、スピードの違いで行ってしまったという感じでした。かと言って、ビューンビューンと行って止まるんじゃなくて、引きつけて逃げて、また終いで飛ばして引き離すという。そういうところはセンスですからね。頭も良い仔で、そこら辺が競馬センスの良さに出ていると思いますね。
東 :新馬戦の結果でかなりの手応えをつかんだと思いますが、その後、2戦目のファルコンS(11/3/19、阪神芝1200m)までに4か月空きました。
矢作 :それは、体質があまり強くないので。背中から腰が疲れるんです。もう少し使い込めるようになれるといいんですけど。もちろん、大事な馬だからということもありますけどね。
東 :それでも、2戦目にいきなり重賞を勝ってしまうというのがすごいですが、先生は特に期待がある馬は2戦目に重賞を使うことが多いと?
矢作 :そうですね。もちろん期待があったから使いました。ただあの時は、いろいろなタイミングもあったんです。震災が無ければ、平場に出ていたかもしれない。そういうところで、“持ってる”なと思います。