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10月市場が終って

  • 2002年10月21日(月) 19時54分
 去る10月7日より11日にかけて静内で行われた「HBA10月市場」は、予想を上回る厳しい結果となって幕を閉じた。

 サラブレッド1歳の上場馬は欠場が相次いだものの結果的には昨年を約100頭上回る769頭。売却が180頭。売却率23.41%である。昨年が686頭上場で212頭が売却され、率にして30.9%だったことを考えると、やはりいかに売れない市場だったかが分かる。

 売却総額は、今年度7億435万円(税抜)。昨年の8億4332万円と比較すると、確かに平均値ではそれほど大きな差ではないとも言える。しかし、その中身をつぶさに検討してみると、格段に今年の数字が悪化していることが分かる。

 どういうことか?

 まず高額取引馬の存在が挙げられる。昨年は、1400万円のコマンダーインチーフの牡馬が10月市場1歳馬の最高価格馬だった。次いでティンバーカントリーの牡馬1130万円。ピルサドスキーの牝馬1070万円と続いていた。因みに1000万円以上の取引馬は計10頭。

 ところが、今年はどうだったかというと、5800万円のサンデーサイレンスの牡馬が最高価格で、次いで3150万円のブライアンズタイムの牝馬。更にオペラハウスの牡馬1710万円、アフリートの牡馬1500万円と続き、昨年の最高価格を上回る高額取引馬が4頭も登場したのである。これらが全体の売り上げを下支えしたおかげで、平均価格が昨年とほとんど変らぬ結果になったのだ。

 問題はそれ以下の(1000万円に満たない)取引馬たちの価格分布である。昨年の場合、900万円台から500万円台までの取引馬が合計51頭を数え、900万円台の馬こそ1頭だけだったものの、800万円台から下は、ほぼまんべんなく50頭の馬たちを価格順に並べることが可能だった。だが、今年はというと、900万円台から500万円台の価格帯の取引馬が22頭に激減しており、しかもそのうちの17頭が600万円台と500万円台に集中している。

 つまり全体を見渡すと明らかにサラブレッドが安くなっているのである。血統や性別の違いはあるものの、私たち生産者の感覚では500万円から1000万円程度の馬は中堅どころの「それなりの出来栄えの馬」だった。しかし、売る側の希望はともかくも、購買する側がより財布の紐を締めてしまっているため、生産者の販売希望価格には程遠い取引馬が圧倒的に多くなってしまっているということである。

 今年の最高価格馬(サンデーサイレンス)と次点の馬(ブライアンズタイム)は、本来ならば10月市場に上場されるような馬ではなく、とうの昔に庭先で売れているレベルの馬である。平均値を出す際にこういう特殊な上質馬をも含めて計算してしまうと、実態に近づくことが難しくなると私は思う。

 価格の低下と共に、買い控えの傾向もより顕著になっており、当歳市場に至っては、売却率、取引総額のいずれも昨年とは比較にならぬほどの「落ち込み」となった。上場頭数はほとんど変らずだが、売却率で約17%減、取引総額では半分以下にまで減少してしまい、生産地の窮状を象徴するような結果に終った。

 生産地の不況の原因は、ここで簡単に論じられるほど単純なものではないし、いわば競馬の世界だけではなく日本経済全体と密接に関わる大きな問題なのだが、果たして、この状況をいかに打破できるか、いよいよ正念場を迎えつつあるというのが偽らざる実感である。どこまで「我慢」ができるか、と言い換えてもいい。とにかく大変な時代だ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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