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好事魔多し

  • 2002年10月22日(火) 18時08分
 何があるか分からないとは言っても、ノーリーズンのスタート直後の落馬は、あまりにもでした。馬がゲートをとび出すときには、からだが15cmは沈むと言われています。

 以前、競走馬の走るメカニズムを解明した記録映画のナレーションをやったことがありました。普段、双眼鏡でレースを見ているだけでは知る由もない馬の四肢の動き、首や肩先の波打つ筋肉の動きなど、超スローモーションで見せていて、どれほど脚への負荷があるか、その凄さに息を呑む思いでした。

 ゲートからとび出すとき、馬はからだを沈め、とび上がるようにして前へ進みます。後脚の蹴りで馬体を推進させ、そのとき、前脚は真直ぐ前へ伸ばしています。このフォームですから、背中の騎乗者には、その動きに合ったバランス感覚がもとめられるのです。

 なに気なく見ているスタートの一瞬ですが、そこには細心の注意が払われていて、それ如何では、勝負への影響も避けられません。

 ですから、レースの実況放送も、そのスタートの一瞬に神経を集中させるのです。ここをクリアーすることで、人馬のリズムが生まれ、その馬の全能力を出し尽すことができるのです。

 ところが、馬はとてもナーヴァスな生きもので、例えば、その瞬間に何かを見てしまうとか、突然の大きな声に身をすくめてしまうとかすることがあります。

 今度の場合、ノーリーズンに何かがあったのでしょう。通常以上に大きくとび上がり、その為、着地の衝撃が大きかった、武豊騎手がバランスをくずしてしまったのは、そのせいだったようです。

 これは、不可抗力だったとしか言いようがなく、ただ、残念無念の思いを時間をかけて吹き切るしかありません。好事魔多し、これを乗り越えるのが競馬とつき合っているものの定めなのでしょう。それにしてもの、今年の菊花賞でした。気を取り直しましょう。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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