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東田幸男調教助手インタビュー後編

  • 2011年06月02日(木) 12時00分
昨年ついに全国リーディングに輝いた音無秀孝厩舎。厩舎を支える東田幸男調教助手に、音無厩舎成功のカギを伺います。

◆日本一トレーナーの仕事

:東田さんは元騎手ですよね。ご出身の北海道で競馬に出会われたんですか?

東田 :家はまったく競馬と関係ないんです。ただ、学校に行く途中に近道で放牧地を通ったりすると、馬がいたんですよね。馬が寄ってくるので、逃げ回っていました。「こんなでっかい馬が!!」っていう感じで怖かった。だから、競馬にも全然興味がなかったんですよ。

:馬は怖いものだったんですね。そこからなぜ騎手になろうと?

東田 :姉が牧場に勤務していましてね。そこで少し手伝いをするようになったんです。恐る恐る馬を扱ったというのが最初です。

:馬に乗ったんですか?

東田 :いやいや、乗らないですよ。触るだけでも怖かったのに、馬の上に乗るなんて…あれはサーカスだと思っていました。そういう感じだったんですが、まあ、体も小さかったのもありましたし、姉の助言があって騎手を目指すことになったんですよね。

:そうすると、競馬学校へ入られて?

東田 :いや、その時代は騎手になる道が2種類あったんです。競馬学校に入るのと、厩舎に入って調教師の下で勉強させてもらうのと。それを短期騎手候補生と言ったんです。僕は二分久男厩舎で修行させてもらいました。騎手になれたのは、二分先生のお陰です。

:やはり厩舎のバックアップなしにはなれないんですね?

東田 :ええ。短期騎手候補生からジョッキーというのは、よっぽどのバックアップがないとなかなかなれなかったんです。僕らの時代は前年の12月に合格発表があって、年明けの3月1日から競馬に乗りました。「デビューするまでの3か月が花形だ」って言われた意味が分かりましたよ。それはもう、いろんな取材は来るわで。

:「未来のスター」ですもんね。

東田 :そうです、そうです(笑)。ところがいざ蓋を開けたら、現実は厳しかった…。だって、この世界だけでしょう、いきなり横綱と同じ土俵に上がるの。でも、僕らの時代はまだ良かっですよ。今はもっと大変ですもんね。

:そうですよね。騎手を引退されて、今は音無秀孝厩舎の調教助手さんということですが、その中でも「番頭さん」と呼ばれて、厩舎をまとめるお立場ですよね。具体的にはどういうお仕事をされているんですか?

東田 :まず、うちは水曜日に追い切ります。そこで「単走でやろう」と決めたり、併せ馬ならパートナーを組んだり、ジョッキーに乗ってもらうならジョッキーの手配をしたりと、そういうことをやっていますね。また、一番大事なのは追い切りと、その後です。

:追い切り後のケアですか?

東田 :ええ。獣医さんに診てもらって、体調面のケアもしていきます。そうやって完璧な状態で競馬に送り出す。ただ、その「完璧」だって、勝手に僕ら思っているだけで、結果はなかなか出ないですもんね。成功例より失敗例の方が相当多いんです。

:先生への報告というお仕事もありますよね?

東田 :先生は他にも調教師としての仕事があるから、あまり小さい事は言わないです。要点だけを伝えますね。うちの先生も小さい事は聞かないですし。その辺はすごくおおらかですよ。だからこちらも責任を持ってちゃんとやっておかないといけないですよね。

:責任あるお立場ですね。

東田 :おや、責任者とは言っても、何て言うのかな、僕らみたいにもう50歳も過ぎたら、気楽にやればいいというかね。僕らがプレッシャーをかけると、若い子はついて来なくなりますよ。

:はい。

東田 :あまり小さい事を言ってもダメだし、何か相談しに来たら「こうこうじゃないの?」という感じで、頭ごなしには言わないです。「あれやれ」「これやれ」じゃ、今の世の中では通用しないですね。やっぱり、人を動かすというのは大変です。うちの先生なんてもっと大変だと思いますよ。いくら良い馬がいたって、人が動かなかったらどうしようもないですからね。

:馬作りは人作りからなんですね。

東田 :そこなんですよ。でもね、若い子たちは一生懸命やっていますよ。いろんなことを吸収しようと思って、先輩の言うもよく聞いて、がんばっています。

:騎手を引退して調教助手になった生野(賢一)君もがんばっていますか?

東田 :がんばっていますよ。生野もね、本当はもうちょっと騎手を続けたかったんでしょうけどね。まあ、これは仕方がない。自分で決めたことだから。本当に真面目ないい子なんですよ。これからはもう僕らの年代じゃなくなるから、生野が音無厩舎を受け継ぐくらいに、ちゃんとやって行って欲しいですね。

:音無厩舎は、昨年リーディングも獲られましたね。

東田 :ありがとうございます。ここ5〜6年、常に良い成績を上げてくることができました。そういう自覚をみんなが持っています。そういう意識を持って、いつも通りのことをしっかりやることが一番大事。あとは先生が北海道に行って、馬主さんに「お願いします」って、良い馬を預けてもらってくれたら(笑)。

:そこは先生の腕の見せ所ですね!

東田 :ええ。うちの先生はね、気さくで話し上手な人なんですよ。そして、物知り。それがいいんじゃないですか。馬主さんも、偏った仕事の話ばかりじゃ面白くないじゃないですか。仕事の話以外になっても、すぐに対応できるというかな。それには知識がないといけないでしょう。

:先生、スタッフさんの絶妙なチームワークが、この活躍を生んでいたんですね。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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