実は今年の赤本制作中、とあるページが1ページ丸々空いてしまうかもしれない、という局面があった。
結果的に空きはしなかったのだが、当時は万が一のために差し替え用コラムを用意。その昔、赤本やその前身本でやっていた「10年前のPOG」がテーマである。
結局はお蔵入りとなった原稿だが、捨てるにはあまりに惜しいので、今回の連載にそのまま使わせていただくことにした。10年以上前からPOGをやっているベテランの方にお楽しみいただければ幸いである。
(以下、本文)
この原稿を書くにあたって10年前の赤本を開いてみたが……ひどいデキの本だな! POG本制作のノウハウが蓄積されていく過程だったとはいえ、今と比べたら情報は少なくスカスカ。
カラーパドックは180頭のみ。大半が産地馬体検査のうえ、右アタマだったり変な姿勢だったりも多数。内国産馬リストは570頭程度しかなく、セール履歴など現在収録されている情報で当時入っていないものも多い。
ページの使い方も贅沢というか緩いというか、クロレビが1ページ2頭で32頭(16ページ)など、今となっては信じられない台割だ。その一方で、育成牧場リポートや厩舎別リポートなど、現在の常識では不可欠なコンテンツが入っていない。
10年前に自分はこんな本を売っていたのかと思うと、超恥ずかしい。井森美幸のオーディション時ジャズダンス映像くらい恥ずかしい。しかしまあ、逆に考えれば10年間で赤本は大きく進化したとも言えるのではないだろうか。
さて、そんな10年前のPOG。カラーパドックの冒頭ページに掲載されていた馬は誰だったか、想像できるだろうか?
正解はエアトゥルース(母アイドリームドアドリーム)とアグネスプロトン(母アグネスフローラ)。なんと2頭ともエリシオ産駒である。
その対向ページにいたのがトーセンハミング(母ファデッタ)、ファビラスキャット(母ファビラスラフイン)、エスフライト(母ノースフライト)でいずれもサンデーサイレンス産駒。次のページになるとアドマイヤマックスやリミットレスビッドが出てくるが、後者はPOG期間についてはイマイチだった。
他の馬も含めてこの世代でどんな馬が人気になっていたか、当時の赤本おすすめ馬から振り返ってみよう。
須田のおすすめ馬は上から順にフサイチイチロー、カレンバレリーナ、サルトリア、アイディアルカット、ナイススピードワン、ブレイブスペシャル、エリモマキシム、ベラジョルナータ、ダンツシェイク、ホシノササヤキ。……10年前の自分を殴ってやりたい。
この世代、他にはピタゴラス(母バレークイーン)あたりがSS直仔の「やっちまった馬」としてPOGファンの記憶に残っているところ。反対に人気かつPOG期間内に走ったのはサクセスビューティ、タイガーカフェ、モノポライザーあたり。モノポライザーはハードルを上げすぎて十分に評価されなかったが……。
当時はマル外ブームもかなりのもの。前出のベラジョルナータは、「女クロフネ」と呼ばれていた。未出走だったけど。フロリダでノーザンファームが買った一番高い馬をみんなで奪い合っていた当時が懐かしい。
赤本コンテンツにもう一度目を転じてみよう。忘れちゃいけないのが水上さんの新種牡馬コーナー。なんと当時は4ページ企画。前年にザグレブをイチオシにしてしまい、10年前の赤本では「ザグレブ水上」というペンネームに強制改名させられての登場。そして推した新種牡馬がピルサドスキー……。
ただ、振り返ってみればザグレブはともかくピルサドスキーは水上さんの落ち度ではなかった。この世代の新種牡馬は他がエリシオ、アラジ、ブラックタイアフェアー、エアダブリンといった面々。種牡馬としての出世頭でマヤノトップガン、マーベラスサンデーくらいだったのだ。
もうひとつ、当時はJRAブリーズアップセールがまだ無く、抽選馬のドラフト結果が巻末に載っていた。タムロチェリーがいた世代だが、同馬は関西40頭中ドラフト31位。POGもリアルも、馬選びというのは難しいものだ。
▼筆者:須田鷹雄
1970年東京都生まれ、東京大学経済学部卒業。POGの達人としても知られ、監修を務める“赤本”こと「POGの達人」(光文社刊)は、POGユーザー必携の書と言われている。netkeiba.comでは「回収率向上大作戦」も担当している。