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混戦模様の凱旋門賞

  • 2011年09月28日(水) 12時00分
 抜けた存在が居らず、高いレベルでの混戦となっている今年の凱旋門賞は、少なくとも7〜8頭が争覇圏にいると見ている。

 9月11日、本番と同じコースの同じ距離で行われた3つの前哨戦の中で、最も水準が高かったのは、4頭立てと少頭数になったものの出走馬全てがG1勝ち馬だったG2フォワ賞だったと思う。

 フランス特有の、そしてプレップレース特有のスローな流れになった中、先行するセントニコラスアベイとヒルノダムールの間をこじ開けて出て来たサラフィナの競馬は、着差以上の強さを感じさせるものだった。

 だが、不安もある。後ろから行くしかない彼女が、前哨戦よりは明らかに多頭数となる本番で、同じような競馬が出来るだろうか?。陣営は、本番を想定して前哨戦でも馬群を割る競馬をさせたと語っているが、昨年の凱旋門賞でも直線に向くまでに度重なる不利を被り、脚を余して敗れているサラフィナである。昨年と同じ轍を踏まぬ保証はない。

 初体験だったロンシャンの馬場を平然とこなし、春の天皇賞以来4カ月以上の休み明けで、G1・3勝馬サラフィナ(牝4、父リフューズトゥベンド)と短首差の勝負をしたヒルノダムール(牡4、父マンハッタンカフェ)は、前哨戦として申し分のない競馬をした。その後も順調に調整が積まれていると聞いており、客観的に見て彼には大きなチャンスがあるはずだ。

 昨年のジャパンC以来10カ月半ぶりの実戦で、しかも明らかに追い不足の状態で、勝ち馬から3馬身差の競馬をしたナカヤマフェスタ(牡5、父ステイゴールド)もまた、百点満点の前哨戦だったと言えよう。思い返せば1年前のフォワ賞でナカヤマフェスタは、そこが重賞初制覇だったダンカンと3/4馬身差の競馬であった。それが今年は、3着となっ
たG1・2勝馬セントニコラスアベイと1/2馬身差なのだ。前哨戦としては、昨年よりも「上」とすら言える内容である。

 このところパリ近郊は天候が安定しており、このまま推移すれば、10月2日のロンシャンは硬めの馬場になりそうなのも、日本馬2頭にとっては追い風だ。

 日本馬同様、良馬場との予測に小躍りしているのが、日本でもお馴染みのスノウフェアリー(牝4、父インティカブ)だ。前走、愛チャンピオンSで、今季3戦目にしてようやく本来の姿を取り戻した同馬。だとすれば、牡馬の一線級に混じっても、なんら遜色がないのが彼女である。鞍上に、天才F・デトーリを据えているというのも、大きな魅力だ。

 一方、馬場が硬くなりそうとの予報で、ここへきて人気を落としているのが、この路線の前半戦の総決算G1キングジョージで、3歳世代としては8年振りの優勝を飾ったナサニエル(牡3、父ガリレオ)だ。キングジョージの前走、ロイヤスアスコットのG2キングエドワード7世Sにおけるレース振りにも、この馬の持っている潜在能力の高さが如実に表れていたが、一方で、超スローペースとなったキングジョージは出走各馬の能力が素直に反映したとは言い難い一戦だった。そうでなくても、ナサニエルまでは印が廻らないだろうと見ていたところへ、不向きな馬場になりそうとあっては、争覇圏に入るのは難しいかもしれない。

 フランスの3歳世代を代表する、ニエユ賞の勝ち馬リライアブルマン(牡3、父ダラカニ)も、どちらかと言えば柔らかめの馬場でやりたいクチだ。だが、現在の上昇度を考えると、多少の逆風なら跳ね返してしまうほどの勢いが、今の彼にはあるように思う。鞍上のG・モッセが、見せムチこそ使ったものの、馬を叩くことは一度もせずに2馬身後続を突き離したニエユ賞のレース振りは、それほど印象的だった。

 そのニエユ賞で、1番人気を裏切り2着に敗れたメアンドル(牡3、父スリックリー)。あの敗戦で、すっかり人気を落としているが、良く見れば、メアンドルもニエユ賞では鞍上のM・ギヨンは一度きりしかステッキを使っていない。つまりは、前哨戦に徹した競馬をしたわけで、そうであるならば、凱旋門賞7勝という最多勝調教師A・ファーブルの管理馬であることも考え合わせると、あの敗戦だけで見限るわけには絶対にいかない1頭であるように思う。

 3歳勢では、牝馬のガリコーヴァ(牝3、父ガリレオ)の評価も高い。だが、今年のG1ヴェルメイユ賞(芝2,400m)は古馬の一線級の参戦がなく、メンバーは明らかに手薄だった。フランスのヒロイン・ゴールディコーヴァの妹ということで、ややもすれば人気先行のきらいがあるだけに、馬券的には外したい1頭である。

 3歳牝馬ならば、追加登録をして出走してきた場合のデインドリーム(牝3、父ロミタス)の方に、より大きな魅力を感じる。G1ベルリン大賞、G1バーデン大賞と、古馬の牡馬を含めたレースで、圧勝を繰り返して来た底力は、並大抵のものではないはずだ。ただしこの馬も、馬場は柔らかい方が動けるクチだ。

 実力上位で、よほど極端な状態にならない限り、馬場にも影響されないのが、連覇を狙うワークフォース(牡4、父キングズベスト)と、G1・8勝馬ソーユーシンク(牡5、父ハイチャパラル)である。

 ケガで戦列を離れていた主戦のR・ムーアが、ギリギリのタイミングではあったが復帰し、何とか騎乗出来そうというのは、ワークフォースにとっては朗報だ。

 自身の3連覇がかかるG1コックスプレート(芝2,040m)を狙っての豪州凱旋帰国案も含め、複数のレースが選択肢に上がっていた中、ここに矛先を向けて来たソーユーシンクも、必勝態勢を敷いての出陣と見る。

 まさに目移りするメンバーで、誰が勝ち馬になろうと見応えのある競馬が見られることは必至だが、心情的には力一杯、日本馬を応援したいと思っている。

 凱旋門賞前日のG2ドラール賞には、ナカヤマナイト(牡3、父ステイゴールド)が出走する。人気を集めるのはおそらく、8月28日のG2ドーヴィル大賞を10馬身差でぶっちぎり、125というオフィシャルレートを獲得したシリュスデゼーグル(セン5、父イーヴントップ)だろう。ナカヤマナイトにとっては相当に高いハードルだが、ロンシャンを1度経験しただけに、前哨戦とは一変した走りを見せて欲しいものである。


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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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