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酸いも甘いも…朝日杯フューチュリティSの思い出

  • 2011年10月11日(火) 18時00分
「なにを頑張ったらいいのかわからない…」。園田時代とはなにもかも違う環境に、精神的に参ってしまった時期があったという小牧騎手。そんな小牧騎手を救ったのは、「うちの厩舎を中心にやっていかへんか?」という、橋口師の言葉でした。以降、すっかりおなじみとなった橋口厩舎とのコンビですが、この秋も、デイリー杯2歳Sに出走予定のクラレントをはじめ、楽しみな馬が目白押し。今回は、今年注目の2歳馬から、ペールギュント、ローズキングダムといった若駒時代のパートナーとの、悲喜こもごもに迫ります。

──ローズバドでのフィリーズレビュー制覇をきっかけに、橋口厩舎とのコンビでは、ここまで重賞12勝の実績を挙げられて。

小牧 えっ!? そんなに勝ってるんや…。

──そうですよ(笑)。この秋も、クラレントを筆頭に、楽しみな馬が続々控えてますね。

小牧 ホントにねぇ。クラレントはもちろんやけど、リュウシンアクシスとオリービンもいるしね。両方とも2着やったけど、どちらも走りますわ。楽しみです。

──デイリー杯2歳Sには、クラレントで出走予定ですよね。新馬戦のレースぶりは、いかにも走るサンデー系の典型といった感じで、粗削りななかにも将来性を感じました。

小牧 新馬戦の脚はすごかったよね。ああいう脚は、なかなか使えないから。ただ、新馬戦に関しては、それほど自信があったわけではないんです。追い切りに乗った印象では、正直“走るんかな?”って思ったくらい。でもまぁ、びっしりやってなかったから、これは1回使ってからかなぁと思ってました。そうはいっても、橋口厩舎でリディルの下(半弟)となれば、どうしても人気になるからね。いざレースに行ったら、強い競馬でしたね。

クラレントの脚は凄かった


──では、新馬戦での勝利は、小牧さん自身はちょっとビックリというか?

小牧 うん…そうやねぇ。勝ってくれたらなぁっていうくらいの手応えは感じてましたよ。結構、周りからもプレッシャーをかけられたんでね(笑)。

──中間も乗ってらっしゃいますけど、状態はいかがですか?

小牧 すごく良くなってます。新馬のころはトモが緩かったんだけど、だいぶしっかりしてきてね。あとは、とにかく元気が良くなって。デビュー前は、トロ〜ッとしてたんですけどね。クラレントのお兄さんのリディルの世代は、そのリディルとローズキングダムがいて。デビューする前から乗せてもらってたんですけど、あの2頭はそれまで跨いだなかでも“違うな”って感じたんです。だから、それ以降、どうしても新馬の評価が厳しくなってしまってね。

──デイリー杯2歳Sといえば、そのリディルとペールギュントで2勝されてますよね。当時のその馬たちと比較して、完成度という意味では…。

小牧 今度、レースを使ってみてわかると思います。今の時点では未知数ですけど、新馬の勝ちっぷりからするとね、楽しみが大きいです。

──ペールギュントでは、そのデイリー杯2歳Sを勝って、朝日杯フューチュリティSで1番人気に。初めてのGI・1番人気で、ずいぶんプレッシャーもあったのではないですか?

小牧 あのときは緊張しましたねぇ。オッズを見て、“あ、1番人気だ…”とわかって、なおさらね。ただ、ちょっと酷な1番人気やな、とは思ってました(混戦で、1番人気とはいえ、単勝オッズは3.5倍)。おそらく、デイリー杯の勝ち方が衝撃的だったからなんでしょうけどね。3着でしたけど…、あれ? なにが勝ったんでしたっけ(マイネルレコルト)? ゴール前は頭が真っ白になってしまって、覚えてませんわ(笑)。レースが終わったあと、「あんな競馬をして…」って、けっこう叩かれましたね。

──頭が真っ白になったというのは?

小牧 GIの1番人気は初めてでしたからね。それに、乗り難しい馬だったので、勝つにはどう乗ったらいいか、どう乗るべきかと、ずーっと前から考えていて。なんせ、勝つイメージしか浮かばなかったから。それで、結果的に勝てなくて“ああ、勝てんかったなぁ、こんなもんかなぁ”って。あそこで勝っていたら、また違う道を歩んでいたかもしれないし、あの負けがあったから、今があるのかもしれないし。

──ご自分の騎乗に後悔はありますか?

小牧 いや、それはないです。東スポ杯(2着)のとき、意識して前に行ったんですけど、やっぱり切れなかったから。だから、勝つには後方から行って、終いを生かす競馬しかないと。自分の思った競馬をして、それで負けたら仕方がないなって、腹を決めて乗ったんです。でも、それがあまりよく思われなかったんですよね。“勝ちにいってない”と映ってしまったみたいで。

──そうは言っても、叩かれたりするのは、やはり精神的にダメージを受けたのではないですか?

小牧 いえいえ、もう仕方がないなと。それほどダメージは受けてないですよ。アカンときはアカン、そんな感じでしたね。

──でも、その5年後には、同じ朝日杯フューチュリティSをローズキングダムで勝ちました。それも、1番人気で。やはり、リベンジという気持ちはありましたか?

小牧 取材では、ペールギュントの雪辱がどうのって、聞かれましたけどね。僕自身は、あのとき全然プレッシャーがなかったんです。自信満々でした。絶対に強いと思っていたので。

ローズキングダムの朝日杯は自信満々でした


──そういえば、新聞などでも、すごく強気な発言をされてましたもんね。

小牧 うん、ホントに自信があったから。でも、あとから聞いたところによると、橋口先生は『あいつ、なんであんなに自信満々なんや』って思っていらしたとか(笑)。僕自身は、ゲートさえ普通に出たら、絶対に大丈夫だと思ってました。朝日杯は、この馬にとって通過点だと。あれだけ自信を持って乗れるGIって、これからもなかなかないでしょうね。

──GIの1番人気となると、その馬の能力以前に、普通は自分との戦いがなによりの障壁だと聞きます。よほどの自信と手応えがあったんですね。

小牧 そうですね。追い切った時点で、「うん、もう大丈夫!」って、声に出して言ったのを今でも覚えてます。

【次回の太論は?】
ローズキングダムでは、その後、スプリングSと皐月賞に出走。しかし、ダービー前にまさかの騎乗停止に──。次回は、当時の思いを赤裸々に語るとともに、時間をさかのぼって、橋口師との出会いから、ローズバドでの初重賞制覇の思い出に迫ります。

【質問コーナー】
■先月のインタビューではタンクトップを着ていらっしゃいましたが、ファッションへのこだわりはありますか?

小牧 とくにこだわりはないんですけど、嫌なものは嫌とハッキリしています。色は黒が好きですね。園田にいるころは、服も自分で買いに行ったりしてましたけど、滋賀に来てからは奥さんにお任せです。

■普段の騎乗でもっとも心がけているころは何ですか?

小牧 ん〜、やっぱりスタートですね。気のいい馬はガツンと出したらダメだし、ズブい馬は、逆に出していかなくちゃいけない。その馬に合った(ゲートの)出し方を心がけています。

■引退後のことは何か考えていらっしゃいますか? したいことは?

小牧 最近はたまに考えたりします。頑張っても、あと10年は乗れんなぁ…とか思いながら。なにしようかなぁ(笑)。なんでもできそうな気がするけど。競馬の世界で絶対に生きていこうとか、そういうこだわりはないです。調教師さんになるっていう選択は、ダービーを勝ったら考えようかなと。でもやっぱり人を使っていくっていうのは大変なことなので、僕には向いてないかな。
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太論 / 小牧太
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1967年9月7日、鹿児島県生まれ。1985年に公営・園田競馬でデビュー。名伯楽・曾和直榮調教師の元で腕を磨き、10度の兵庫リーディングと2度の全国リーディングを獲得。2004年にJRAに移籍。2008年には桜花賞をレジネッタで制し悲願のGI制覇を遂げた。その後もローズキングダムとのコンビで朝日杯FSを制するなど、今や大舞台には欠かせないジョッキーとして活躍中。

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