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組合員勘定の精算

  • 2002年12月16日(月) 18時08分
 いよいよ今年も残すところ2週間ほどになった。このコラムをお読みいただいている皆様にとって2002年はどんな年だっただろうか?

 日高に住む私たち生産者にとっては、不況の厳しさをより実感させられる何とも暗い一年だったと思う。

 いかんせん生産馬が売れなかった。一説によれば、未だに日高を中心として生産地全体で1歳馬の売れ残りが約1000頭いる、とも言われている。先日私の牧場を訪れた友人のKが「いるわいるわ、なんぼでもいる。こんなに売れ残っている年は初めてだ。」と驚いていた。

 Kは生産者だが、仲介業者でもある。全国各地の馬主や調教師から依頼を受けて、生産地で1歳馬を探すのが仲介業である。「まあ、買う立場からすれば、いくらでも馬が残っているんだから、よりどりみどりで商売はしやすいけどね。しかし、その分値段も安いから、生産者には気の毒だなあ。牝馬なんて、もう値段はないに等しい。無料(ただ)でも要らないって言われるんだから。」と、こんな具合である。

 たとえ無料と言われても、相手は生きている馬だから、当然、給餌も必要だし、放牧もしなければならない。何より、1歳馬ならば、そろそろ初期調教も開始しなければならない。一方で、売れる目途などまったく立たないにもかかわらず、である。

 かくして、この年末は、それぞれが、大きくマイナスになっている組合員勘定(簡単に言うと、年末に引き落とされるクレジットのようなもの。私たち生産者はたいていこの制度を利用している)の精算に頭を痛めることになる。

 組合員勘定は、略して「組勘(くみかん)」と呼ばれる。各生産者が年度当初に、「営農計画書」というものを農協に提出する。その中身はというと、収入予定と支出計画をかなり事細かに記載するようになっており、担当者の決済を受けて初めて資金供与が受けられる。

 もちろん、最初からあり余るだけの自己資金を持っていれば、こんな制度など利用する必要はないのだが、そんな生産者はまず皆無に等しいので、ほとんどが「組勘」を利用することになる。計画通りに、収入が上がり、その範囲で支出をしていれば何も問題は生じない。しかし、しばしば売れると思っていた馬が売れなかったり、入金予定の預託料が入らなかったりして、収入が大きく狂うことになる。そのつけは、年末になって「残高」に現れる。収入と支出が釣り合っていれば、無事に越年できるのだが、収入より支出の方が多い事態を招くと、不足分をどうするか?という話になってくる。多くの牧場はすでにかなりの借金体質になっているので、借りていたものを返済するどころか、新たな借金を重ねて年を越すようなことになってしまうのである。

 しかし、まだ貸してくれる間はそれでも良いのだが、ここに来て農協も、いよいよ資金調達が悪化してきたと見えて、かなり露骨に「貸し渋り」をするようになったと聞く。「貸しても返済してもらえない恐れがある」からなのだ。

 かく言う私の牧場も、現在の組勘残高は、マイナス1300万円。さてこの穴をいかに埋めるか…。

 いずれにしても、年内に精算しておかねばならない。頭の痛い毎日が続く。売れ残りの1歳馬もいて、まだまだ元旦を迎えるには難題を解決しなければならない。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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